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映 画

「富士川六景 幕末明治舟運ものがたり」『大きな玉ねぎの下で』のとっておき情報
(2025年2月8日10:20)
映画評論家・荒木久文氏が、時代小説「富士川六景 幕末明治舟運ものがたり」と映画『大きな玉ねぎの下で』のとっておき情を紹介した。トークの内容はFM Fuji「Bumpy」(月曜午後3時、2月3日放送)の映画コーナー「アラキンのムービー・ワンダーランド」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。
鈴木 よろしくお願いします。
荒木 最近は、時代劇映画が脚光を浴びていますよね、最近も何本か紹介しましたが。私が最近読んだ本でこれ映画にしたら面白いなと思った本がありまして。
鈴木 まだ、映画化はしてないのね?
荒木 はい。時代小説なんですけど。いつもはもちろん映画情報をお送りしているのですが、そんなこともあって今日は珍しく本の紹介からしてみようと思います。
鈴木 いいじゃないですか!
荒木 紹介するのは、高部務さんという山梨県都留市出身の作家が書いた『富士川六景 幕末明治舟運ものがたり』という時代小説です。

鈴木 幕末から明治ってことですね。
荒木 そうです。舟運とかいてしゅううん、船による運送ですね。ここ山梨県を主な舞台にした短編時代小説集なんです。タイトルの富士川は山梨県やその周辺に住んでいらっしゃる方はお分かりですよね。富士川って、ふじかわ、濁らないんですよね。
鈴木 そうそう、ふじかわ。
荒木 山梨と長野の県境の鋸岳に源を持ってほか河川と合流しながら、甲府盆地を横断して笛吹川と合流して富士川になるという。富士山の西側を流れてね。
鈴木 おっしゃる通りです。
荒木 このあたりは、観光大使として間違ってませんか?
鈴木 間違ってません、大丈夫です(笑)。
荒木 更に下って静岡県に入り、最後は富士市と静岡市清水区の境で駿河湾に注ぐというこの川は、球磨川、最上川と並ぶ、日本三大急流というらしいですね。
言うまでもなく、昔から山梨甲斐と静岡駿河を結ぶ水運、つまりこの川を使った船の物流としての要路なんですね。古くから人々の暮らしに密着してきた山梨県民にとってはお馴染みの代表的な川ですよね。
鈴木 そうですよ。
荒木 昔 甲斐の国、山梨県は交通の便が非常に悪い土地だったんですね。
山に囲まれていて陸路にたよるしかなかったのですが、道が悪く時間もかかったということで、注目されたのが富士川なんですね。その発端を作ったのは徳川家康の時代だそうです。江戸時代、甲斐国鰍沢、現在の富士川町ですよね。
鈴木 そう。鰍沢はドライブで何回か通り抜けたことあります。
荒木 鰍沢と駿河国の岩淵、現在の富士市ですね。ここを結ぶ富士川舟運が整備され物資の輸送が盛んに行われるようになります。下り舟、つまり甲斐から駿河への川下りの船には信州や甲州の米を乗せ、反対に帰りの上り舟では塩とか海産物などを主に運んでいました。当然、船は高瀬舟と呼ばれる木で作られた小さな舟なんですけど、船頭さんが槐一本で操るのですが、急流で操船が難しく多くの犠牲を出すこともあったらしいです。この舟は江戸末期から明治へと移り変わる小説の舞台の時にも、主役を張ってたんですね。富士川町は、物流基地・宿場として発展してきたといい、そのあたりが小説の主な舞台なんですね。この小説は江戸から明治に代わる頃の、物を運んだり人を運んだり、そこにあるそれぞれの生活を描いている作品で、船頭さんや人夫さん、そして彼らが利用する宿屋とかご飯屋とか、さらには船を作るし船大工。その中でそれぞれ懸命に生きる人間達を描いています。
鈴木 内容はドラマとか、淡々とした感じなんですか?
荒木 そうですね、名もない人々が主人公ですから、そういう人々のありのままの姿や暮らしや人生を描き出す短編集です。6つの短編で綴られているので富士川の六つの光景、六景ですね。
鈴木 なるほど。
荒木 ひとつめは、「魚尻線と狼」というタイトル。ふたつめは「百足疵の男」。3つ目の短編が「牛窓職人・嘉助」。面白いタイトル続きますね。4つ目が「河原の船宿」。5つ目が「殺し合い」。6つ目が「鰍沢とアイスクリン」という話です。
最初の「魚爺戦と狼」は運搬船の乗り子と呼ばれる乗り組み人夫の話しです。
父親が死んだため故郷の鰍沢に帰り、魚のマグロを静岡から運ぶ馬方の物語です。
親子の情愛を細やかに描いています。魚尻線というのは魚が生で食べられる限界線のことで山梨中央部やその辺りがギリギリのところだったらしいです。明治の頭にはまだ存在したのであろう二ホンオオカミの話なども出てくるんです。
鈴木 もう絶滅してますもんね。
荒木 そうですね。3篇目の「牛窓職人・嘉助」は、運搬に使う木製の舟を作っていた職人が主人公、その妻の純愛と波乱の人生を描いた話です。そして最後の「鰍沢とアイスクリン」は鰍沢河岸で3人の先導を使っていた親方が、事故を起こしてしまうんですね。で、船を降りて氷売りに商売替えして、新たな夢を追うお話です。どれもよく出来てますよ。
鈴木 当時の転職ですよね。
荒木 そうですよ(笑)。100年程前の幕末ですね。富士川と共に生きた人々の生活と人生がここに描かれています。もしかしたら、今、ラジオお聴きのや山梨県民の何人かのご先祖さまのお話かもしれませんね。
鈴木 そうですよ。間違いなく、ホントそうですよ。
荒木 この本、本当によく調査して書いてあります。昔の地名から始まって
当時の生活の道具から当時の風習まで・・山梨県の今の皆さんが知らない言い回しだとか。
鈴木 あるでしょうね(笑)。
荒木 でしょうね。今では無くなってしまった風景や行事などもわかりやすく書かれています。5年以上かかったと聞いています。著者の高部務さんは、1950年の山梨県生まれなんですが、新聞記者、雑誌記者などを経てフリーのジャーナリストに。新聞や雑誌で執筆を続ける傍らノンフィクション作品を数多く手がけています。2023年には小説「海豚」で第25回伊豆文学賞の最優秀賞を受賞されたという方です。山梨のことをよく知ってるんですね。
鈴木 リサーチの仕方もプロっていうか、しっかりしてるんでしょうね。
荒木 ホントそうです。ということでこれ、是非映画にしてもらいたいと思っていて、誰かプロデューサーに紹介しようと思っています。
鈴木 すげー!
荒木 ロケとかの問題はあると思いますけど。
ご紹介したのは、山梨県都留市出身の高部務さんが書かれた『富士川六景 幕末明治舟運ものがたり』、光文社から出てます。お近くの本屋さんでどうぞ。
鈴木 2年後、3年後くらいに、例のアレが映画化しましたって言うかもしれないですよ。
荒木 そうですね(笑)。本のお知らせだったんですが、
ここでプレゼントのお知らせです。お正月にも紹介し、先週もちょっと触れましたが、アカデミー賞に10部門もノミネートされているあのティモシ―・シャラメが主演したボブ・ディランの若き日を描いた超話題作「名もなき者 ア・コンプレイト・アンノウン」の試写会のチケットを入手したので。東京都内の開催でしかも少なくて申し訳ないのですが・・、場所は東京千代田区の一ツ橋ホール、2月21日(金曜日)午後6時開場6時半開演です。
お近くの人しかダメかもしれないですけど、アカデミー賞のノミネートの中の作品でも注目作なので、公開前に見られます。お好きな人はちょっと応募してください。
鈴木 ありがとうございます。

荒木 最後に今週公開の作品から1本だけご紹介です。『大きな玉ねぎの下で』という2月7日(金) 公開の映画です。「大きな玉ねぎの下で」というのは、ご存じの通り…?
鈴木 爆風スランプのあの曲ですよね?
荒木 そう あの名曲です。多くのアーティストがカバーしてますね。その名曲から生まれたといってもいい…インスパイアされたラブストーリー映画です。
大きな玉ねぎと言うのは、ご存じの通り…。
鈴木 日本武道館!
荒木 そう、日本武道館。頭の上にあるあれ。あれ、擬宝珠(ぎぼし)っていうんですってね。
鈴木 そうなんだ!
荒木 橋の欄干にも小っちゃいのがあるでしょう。一種の魔除けらしいですよ。
鈴木 たまねぎとしてしか、イメージないんだけど。
荒木 この歌の歌い出しは、「ペンフレンドのふたりの恋は…」というね…。ちょっとそれるんですが、ダイちゃんはペンフレンド、ペンパルってわかりますか?
鈴木 わかるっていうか、文通相手みたいな感じでしょう。
荒木 そう、文通ですよ。リスナーの方の中には知らない人もいるでしょうね。今のように出会い系なんかはもちろん、スマホなどなかった時代は知らない異性と知り合うのは学校以外、地域とか雑誌の文通ページだったんですよ。
鈴木 なんかあったねぇ、そんなの。
荒木 雑誌の後ろの方に必ず載っててね。当時、誰々のファンで文通しましょうとか言って住所まで掲載していましたよね。
鈴木 個人情報もないのよ、ダダ洩れですよね。無茶苦茶ですよね。
荒木 結構利用者いたらしいですよ。海外の人相手のもありましたよね。
鈴木 でも、それで出会って幸せな家庭を築いている人、沢山いるんでしょうね。
荒木 今の出会い系のアナログ版ですよ。
鈴木 そうですよ、やってること一緒ですよ。
荒木 この映画はそんなこともちゃんと構成に取り込んでるんです。
2組のカップルが出てきます。まずは現代です。令和 この2人は同じ場所にいるのに会ったことがない2人です。意味わからないと思いますけど…。大学生のタケル君と看護学生のミユウちゃんです。同じ店で昼と夜が違う営業形態が違う場合ありますよね。昼はパン屋で、 夜はバーになるとか…。
鈴木 シフトが違うんですね。
荒木 シフトじゃなくて、店そのものが違うんですよ。
鈴木 なるほど。
荒木 使い分けてるっていうか、そういうお店で働いています。
夜はタケル君が、昼はミユウちゃんが働いています。お互い顔は知らないんですよ。ふたりを繋ぐのは連絡用の<バイトノート>だけ。最初は業務連絡だけでしたが、次第に趣味や悩みも綴るようになります。
鈴木 いいなあ。
荒木 あるよね、そういう事。顔も知らず会ったこともないからこそ、素直になれるんですね。でも実はふたりは顔見知りでしかも全くそりが合わない、険悪な関係だったんです。
鈴木 上手いね。
荒木 そんなことをふたりは知りませんよね。そんなことで、ふたりは大きな玉ねぎの下で、つまり武道館で初めて出会う約束をするという、そういう話なんですよ。
鈴木 玉ねぎ、ゴロンと落ちて来たとか、そういう話じゃないよね。
荒木 ははは 一方、あるラジオ番組のスタジオではパーソナリティが自分の30年前の文通相手との恋を語っていたんです。顔は知らないけど、好きな人と武道館で初めて会う約束をしたという話です。この2つの話が大きく交錯してるんです。
鈴木 出た、そのパターンだ。
荒木 はい。ついに奇跡が起こるというお話なんですけど。出演は国宝級のイケメンと言われる神尾楓珠くんと桜田ひよりちゃん。あと江口洋介、飯島直子、西田尚美、原田泰造とか出演していて、懐かしさも感じて世代を越えて楽しめる作品です。
鈴木 なるほど。
荒木 文通により男女の交流が行われていた時代の恋とデジタル時代の現代における恋を上手く照らし合わせ対比させています。手書きの文章って、書くことなくなったよね、ダイちゃんも。
鈴木 突然、今ペンを持っても漢字書けないし言葉が出てこないよ。
荒木 出てこないよね。読む程度だもんね。
鈴木 読めるけど、書けない感じが多すぎます、今。
荒木 昔は、ペンフレンドに思いを込めて長いお手紙書いてたんですよね。
ペンフレンドの募集ページも雑誌の後ろの方にあって、なんか懐かしいですよね。ぼやけた写真が(笑)。
鈴木 あった(笑)!あれ、今考えたら強烈でしょう。今見たら。
荒木 強烈ですよね。結構、他人の写真を使ったらしいですよね。
鈴木 今やってることと、一緒じゃん!盛り過ぎですよ。いろいろと。
荒木 時代は変わってもね。そんなことも含めて見ると非常に楽しい作品だと思います。良質のラブストーリーと言っていいと思います。シンガーソングライターのasmiさんが主題歌「大きな玉ねぎの下で」をカバーして、武道館ライブを控えるアーティスト役で出演していますので、聴いて頂けるといいと思います。
鈴木 このあと、その曲をお送りしましょう。
荒木 2月7日公開の『大きな玉ねぎの下で』という作品をご紹介しました。
鈴木 ありがとうございます。

■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年生まれ。長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。
■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。