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映 画

「ブリティッシュ・ノワール映画祭」、アラン・ギロディ監督の長編3作品などのとっておき情報
(2025年2月21日10:30)
映画評論家・荒木久文氏が、「ブリティッシュ・ノワール映画祭」アラン・ギロディ監督の長編3作品などのとっておき情を紹介した。トークの内容はFM Fuji「Bumpy」(月曜午後3時、2月17日放送)の映画コーナー「アラキンのムービー・ワンダーランド」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。
鈴木 よろしくお願いします。
荒木 今日は、映画イベントを2本ご紹介したいと思います。
先週は、「野生の島のロズ」など超メジャーな作品をご紹介しましたが、今日はマニアックな映画作品やイベントですね。
まず、「ノワール映画イベント」のお知らせです。ノワールってよく聞くでしょう?
どういう意味かというとフランス語で黒という意味なんですね。元々 闇社会に題材にとった犯罪者の視点から描かれた小説のことなんですけど、暗黒小説ですよね。
人間の悪意だとか、差別だとか暴力だとかを描いているんです。
フィルム・ノワールというと、特に1940年代くらいのアメリカのモノクロ映画、犯罪映画を指すんですね。
鈴木 基本的にはモノクロ映画なんですか?感覚は。
荒木 そうなんです。最初はモノクロ。それがはじまりなんですよね。
ノワールってあとからつけられた名前なんです。例えば「香港ノワール」って言うと
代表的なのは「男たちの挽歌」ね。
鈴木 やっぱりああいう系ですよね。
荒木 そうですね。アメリカだと私が思うのは「郵便配達は二度ベルを鳴らす」ね。これは何回も映画化されてますけど。もちろんフランスにも「ガラスの墓標」とか、いろいろ作品がありますけどね。このノワールフィルムって言うのは各国の個性もあるんですけど、共通な特徴があるんです。まず、画面が暗い。(笑)。夜多い。
主人公が男で、若い男性が比較的少なくて、中年から上のおっさんですね。
その上ダメ人間的な性格が多くて、映画の中ではどんどんどんどんダメになって行く。
そんな感じ多いですよね。
鈴木 あはははは。
荒木 それに加わるのが悪い、いい女。
鈴木 いいですねぇ、なるほどね。
荒木 これが出現して男の身の破滅をどんどん進めるということなんですよね。
鈴木 ファムファタールだっけ? よく登場しますよね。

荒木 「ファム・ファタール」、よくご存じで。「運命の女」ですね。
そんなノワール映画なんですが、今日ご紹介するのはイギリスのノワールの上映イベント「ブリティッシュ・ノワール映画祭」という今週の土曜日、2月22日から新宿K’s cinemaで行われるイベントです。
ここでは、戦後イギリスの殺伐とした情景や犯罪を描いたブリティッシュ・ノワール映画を中心に上映するんですが、上映するのは、日本未公開5作品を含む全13作品です。
私も見たことがありません。
注目作を紹介するとまず「ブライトン・ロック」です。
ブライトンはイギリスの南の端にある有名な保養地・観光地です。あのサッカー日本代表の三笘選手が属するクラブがある街ですね。あのブライトンです。
ストーリーです。ギャングの青年の話です。殺人を犯した彼はその秘密を知る少女に口止めするために近づきます。しかし、この少女、愚かなまでに純粋なんですよ。その彼女に心を乱され始めるという映画なんです。ちょっと専門的に言うとショッキングなカッティングと構図の取り方の切れ味が凄いんですよ。もちろん、戦後すぐの基本のモノクロ作品なんですけど、当時のイギリスの光と影をうまく描いています。
これらを見ると大体、ノワールがわかるかなという感じ。その他この「ブリティッシュ・ノワール映画祭」で上映される作品は全13作品あるんですけど、タイトルだけで面白そうです。
「夢の中の恐怖」という、比較的有名な監督3人によるオムニバスホラーや「街の野獣」とか、これはロンドンの裏社会で生きる若者たちの過酷な運命を追うもの。あと「ビッグ・ボウの殺人」とかね。これはドン・シーゲル監督の作品です。19世紀のロンドンを舞台にした殺人事件ミステリーです。
ノワール映画といっても幅が広いんで、サスペンスだけというより超能力SFものもあったりしてバラエティー溢れる作品が多いですね。ただ、いちばん新しい作品でも今回上映されるのは1950年ですから。
鈴木 新しくてもね!うわぁー!
荒木 そうなんですよ。名品と呼ばれるものばっかりなんですけど、皆さん見たことのない世界だと思いますけど。こういうのって見ているうちに何故か悪者に感情移入しちゃうんですよね。面白いですよね。
英国版フィルム・ノワール、戦後の社会不安や階級問題などイギリス特有のテーマを織り交ぜた独自性があります。是非、好きな人は行って見てください。
2月22日(土)から新宿K’s cinemaで「ブリティッシュ・ノワール映画祭」です。
で、ここからは、ラジオコードに挑戦するようなことがあるかもしれませんが…。
鈴木 何々何々!
荒木 さっき、新海さんに注意されましたよ。表現を注意するようにって。
鈴木 もしかして、あの映画の話しですか?
荒木 そうなんですよ。嫌な人は、聞きはじめて、うーん‥て人はボリューム下げてください。で、7,8分したらまた戻るといいかもしれないですね。
鈴木 切れ!じゃなくて、ボリュームをさげろってこと?(笑)。
荒木 そ!切っちゃダメ。…そう言うとみんな聴くんだよね(笑)。
…ということでマニアック色の強い作品のご紹介です。
フランスを代表するアラン・ギロディ監督の長編3作品が劇場初公開されます。
3月22日から渋谷のイメージフォーラム他、なんですけど…。
さて、アラン・ギロディ監督とはどんな人かというと…まだそれほど撮ってないんですね。1990年にデビューして7作品撮っているんです。その作風は「マイノリティに対する偏見や先入観をいなして、サスペンスにユーモアを織り交ぜながら、人間の根底にある欲望と人間愛という大きなテーマを意表を突くストーリー展開で描くというのが特徴」とパンフレットに書かれてます。
鈴木 なるほど。
荒木 日本で公開される3つの作品は一番新しいので、『ミゼリコルディア』。その前の作品の『ノーバディーズ・ヒーロー』。そして11年前にこの監督を一躍有名にした、カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で監督賞を受賞して、大ブレイクした最高傑作と言われる『湖の見知らぬ男』という代表作です。
鈴木 出ました!

荒木 そうなんです!この『湖の見知らぬ男』、リスク回避のためにダイちゃんにも無理やり、先に見ていただいたんです。
鈴木 あはははは。リスク、私大好きですけど!これちょっと一回見て途中で、荒木さんにLINEをちょこちょこしつつ、なんだ、こりゃと思いながら見て…。
結果の話ししちゃうけど、まるまる2回見てしまいました。
荒木 ははははは。
鈴木 これ、ちょっとね…、この短いコーナーでは語れないくらいの強烈さと、なんかちょっとシュールであり人間の本質を見抜くような、なんか凄いものを見ましたよ。
荒木 そうですか。ストーリーからご紹介ね。
ある夏の湖畔。若いハンサムな青年フランクが、そこで魅力的な男ミシェルと出会い恋に落ちます。この人たちゲイなんです。ある夕方、フランクはその湖でミッシェルと前の恋人の男が喧嘩しているのを目撃します。その数日後、ミシェルのその喧嘩の相手の元恋人だった男性の溺死体が発見されますが、フランクはミシェルがその元恋人を殺したんではないかと思うんですね。そう疑いながらも、彼の魅力に魅せられ身体の欲望に身を任せてゆく——と言うお話なんですけど。
なんとスクリーンには、男性器オンパレードなんですね。もちろん、ぼかしは全くありません。
鈴木 ぼかしがないっていうのも、最初ショッキングだけど、見慣れちゃうもんですね。
荒木 そう。見慣れちゃうんですよ。自然なんです。
鈴木 最初、度肝を抜かれ、途中笑いだし最後は普通になってました。
荒木 ゲイのハッテン場の話しなので、ゼンブ丸出しで、すごいシーン続出でしたでしょう。
鈴木 シーンの話はとてもじゃないけどここじゃ出来ないね。
荒木 はい。画面は絡みまくる全裸、すっぽんぽんの若い男や中年の男のオンパレード。女性はひとりも出てきません。
鈴木 映画で役者は本当はどっちなんですか? 芝居なんですか?あれは?
荒木 役者さんは ほぼ全員ゲイだそうです。
鈴木 じゃあ、本物なんだ。
荒木 はい、だからあんなこともいろいろガチでやってるということなんですが、なんと、この主人公のハンサムなフランク役のピエール・ドゥラドンシャンという人なんですけど、この人007シリーズなんかに出てるんですって。
鈴木 えっ!?
荒木 この人だけがストレートの異性愛者らしいんですよ。
鈴木 えっ!?そうなの? あれは芝居じゃないとちょっとできないですよ。
荒木 ギロディ自身が同性愛者ということもあってですね、愛表現が非常に巧みで濃厚です。彼が今までぼかしを入れる上映を拒否して来たので日本では公開されなかったんですよ。
過去に一度だけ、10年くらい前にこの番組でも紹介した「レスビアンアンドゲイ映画祭」で上映されました。その時、私見ているのですが周り若い女性ばっかりでした(笑)。
鈴木 なぜ?なぜ女性が?
荒木 ねー。だけどね、この映画はカンヌの部門賞を取っただけのことはありますね。テクニック的にもとても優れた映画だと思います。
裸体、湖、森、、暗闇、光、風…素晴らしい使い方してます。
鈴木 明るさと暗さの比較がとてつもない芸術性を感じましたよ。
荒木 そうですよね。例えばカット割りのうまさもね。カットのセンス。
運命がそこで別になったり、気持ちが変わったりするところですね。またカメラワークも、カメラが湖の外へ出てないんですよ。
鈴木 そうだね、あの現場から一回も出てないね。
荒木 そう。たぶんフランクの気持ちが湖にあるんですね。
鈴木 飲もうぜ、とか言ってるのに酒場のシーンは一回も出ませんね。
荒木 そうなんですよ。本当に美しいロケーションと性器丸出しの男たちの印象。そっちの印象が強くてちょっと頭に入ってこないかも…です。2回目に見てダイちゃんみたいにようやく入ってくるの。
鈴木 気づいて見たら、音楽というかBGM一切ないですね。無音ですからね。
荒木 面食らったかと思うんですけど、万人向けじゃないかもですけど、映画好きの人は見て是非、見ておいたほうがいいと思うね。
鈴木 しかも、ラストシーンなんかは考えてしまったよ、いろいろと。

荒木 でしょう。そういう愛の物語ですけどね。「湖の見知らぬ男」でした。
他の2本ですが、『ミゼリコルディア』。これが最新作ですね。
主人公がジェレミー君という人。かつて弟子として修行していたパン屋主人が亡くなり、その葬儀に参加することになるんです。そして、そのパン屋の未亡人の家に数日滞在することになります。そこにいろいろな人が出てきて失踪事件があったり殺人事件があったりで、これも面白いんです。
鈴木 設定が面白いんですよね、この監督。
荒木 そうですね。私も初めて見たのですがこの作品、びっくりしたのは男性自身っていうか、男性性器そのものが演技をしちゃうんですよ。
鈴木 は?どういうこと?
荒木 あまり言えないんですけど、神に仕える神父様の下半身があることである反応をするという…。ちょっとホントに言葉にできないんですが。
鈴木 もう、何を言ってるのかよくわからないね。
荒木 そうそう(笑)。見てもらうしかないですね。この手があったかと感心しました。あと、『ノーバディーズ・ヒーロー』というのも同時にやるんですけど、これは売春婦に恋した男の物語で、その中にテロだとかアラブ系の青年が混じってきたりですね、
ぐちゃぐちゃな映画なんですけどこれも面白かったですね。
アラン・ギロディ監督、異才ですね。異色の監督ですね。

鈴木 この人、天才ですよ。
荒木 はい、そうですね。 彼の作品が日本劇場初公開されるというお話でした。ちょっと先ですが3月22日から渋谷のイメージフォーラム他、全国で公開されます。
鈴木 これ、ぼかしなしで公開ってことですよね?当たりまえですけど。
荒木 そうでしょう。
鈴木 うわぁああああ。
荒木 R18でぼかしなしで公開される予定。
鈴木 浜辺に座ってた、あの太ったおじちゃんが好きでしたね。
荒木 木こりのおじさんね。いい味出していましたね。
鈴木 そうです、そうです!あの人よかったですね。
荒木 今日は、ちょっと難しかったですね。
鈴木 何を話してるか、よくわからない内容でしたけどね。
荒木 ボリュームを下げたみなさん、もう戻してください。
鈴木 素敵な映画のご紹介、ありがとうございました。

■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年生まれ。長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。
■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。