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映 画

第97回アカデミー賞のとっておき情報
(2025年3月1日11:00)
映画評論家・荒木久文氏が、第97回アカデミー賞のとっておき情報を紹介した。トークの内容はFM Fuji「Bumpy」(月曜午後3時、2月24日放送)の映画コーナー「アラキンのムービー・ワンダーランド」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。
鈴木 よろしくお願いします。
荒木 2月も最終週ですね。来週はいよいよ第97回アカデミー賞の発表です。
鈴木 やっぱりその話題に触れないわけにはいかないでしょう!
荒木 そうですね。そんなわけでこの番組でも来週に迫りましたアカデミー賞、短い時間ですけど、ざっくりと直前情報と言うことで聞いてください。全部で20部門以上あるアカデミー賞ですが、全部取り上げるわけにはいかないので主要部門をお話させていただきます。
発表は、現地時間の3月2日、日本時間の3月3日来週ですから例年通りこの番組で結果がお伝えできると思います。 先週ぐらいかな、既に投票は終わっているんですよ。

鈴木 ということは、実はもう決まっているっていうこと?
荒木 はい、決まっています。アカデミー賞には 前哨戦と言われるいくつかの賞があるのですが、例えば英国アカデミー賞とかゴールデングローブ賞とかね、このうちのいくつかは投票する人がアカデミー賞の投票者と重なっていますので、そういう人は全く違う作品に投票することがないだろうということで、アカデミー賞を予想しているわけですよ。そんなわけでいろんな人の話しを聞いて取材した中で、直前情報をお伝えしたいと思います。
鈴木 さすが 荒木さん!なるほどー。
荒木 いや、わかんないって人ばっかしなんだよ。
鈴木 それでいいんじゃないんですか?わかってたらつまんないものね。
荒木 助演女優賞からいきます。この部門の注目は「ウィキッド ふたりの魔女」のアリアナ・グランデと「エミリア・ペレス」のゾーイ・サルダナですね。
作品はふたつともミュージカル作品なので歌って踊ってというシーンが多くて、それは素晴らしいですよ。ゾーイ・サルダナわかりますか? 007シリーズにも出ているスタイルのいい黒人の女優さんで、前哨戦の賞で確実に助演賞取っていますね。この人が頭ひとつ抜けてるのかなと思います。
鈴木 「エミリア・ペレス」のゾーイ・サルダナ。
荒木 そう。その後にアリアナ・グランデと言われています。
助演男優賞、こちらも全くわからないんですよね。「リアル・ペイン~心の旅~」という小さな映画なんですけど、その出演者のキーラン・カルキンが頭ひとつ抜けていると言われていますけど、「ブルータリスト」のガイ・ピアーズがいいという人もいます。僕自身はあの「アプレンティス ドナルドトランプの創り方」で不気味な悪徳弁護士を演じたジェイミー・ストロングが取ってくれたらいいなと思います。けどわかりません。
鈴木 助演男優賞って、主演男優賞より取って嬉しいって方いるみたいですよね。
荒木 そうですね、基本、脇の人が多いからね。嬉しいんでしょうね。
主演女優賞ですがこちらは現在時点では、「ANORA アノーラ」のマイキー・マディソンです。そして「サブスタンス」のデミ・ムーアも有力と言うことのようですよ。一時リードしていたと言われる「エミリア・ペレス」のトランスジェンダー女優のカルラ・ソフィア・ガスコンさん、性転換した人ですよね。この人が有力だったんですが、過去の黒人やイスラム、それにアカデミー賞に対する差別的ツイートが明るみに出て、大炎上しちゃったんですね。
鈴木 なんでこういう時期に、そうなっちゃうんだろうね。
荒木 やっぱり起こるんだよね。ライバルがいろんなことを掘り起こして…そういうものが影響するんですよね。そして主演男優賞が「名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN」のティモシー・シャラメと「ブルータリスト」のエイドリアン・ブロディのふたりが本命視されているようです。あと、監督賞は作品賞次第になるでしょうけど、「ANORA アノーラ」のショーン・ベイカーと言われています。
鈴木 やっぱり、作品賞と監督賞って被るものですか?
荒木 被ったり被らなかったり。被らないってのが原則なんですけどね。普通に考えたら、これが一番いい作品だから監督も一番いいってなるけどね。
鈴木 素人から見たら作品がトップに選ばれるなら、監督のものなんだから、監督トップでしょうって感じですよね。
荒木 そういうことですよね。調べてみたことないけどどのくらい被ってるか調べてみますね。最後、作品賞のノミネート10作品ですが、ダイちゃんからノミネート作品をお願いします。
鈴木 ご紹介しますね。作品賞にノミネートされている10の作品名です。
「ANORA アノーラ」、「ブルータリスト」、「名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN」、「教皇選挙」、「デューン 砂の惑星PART2」、「エミリア・ペレス」、「アイム・スティル・ヒア」、「ニッケル・ボーイズ」「 サブスタンス」、「ウィキッド ふたりの魔女」という10作品でございます。
荒木 現時点での公開作品が2作品だけあって、今週から来週にかけて3作品が公開されますけどね。
鈴木 10のうち2つってのはどうなの?
荒木 うーん。私も8作品は見てますが少ないね。前にも言いましたが、昨年は「オッペンハイマー」がはじめからド本命だったんで予想もつまんないなと思ってたんですけど、今年は大混戦ですね。
鈴木 逆に、抜き出たものがないってことですね。
荒木 そうなんです。それは比較的小さい作品が多いことと、ミュージカルっぽいものが多いことですね。投票者の幅が広がっているってことで、何が来るかわからないと言われています。それでも本命とかはあるわけで「ANORA アノーラ」、「ブルータリスト」、「名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN」、「ウィキッド ふたりの魔女」がトップ4と呼ばれているようですね。「ANORAアノーラ」が前哨戦で先行しているといわれますが、セクシーなシーンが多いんです。だから昔からの年寄の会員は拒否反応があるとかね。重厚な「ブルータリスト」や「教皇選挙」が有利だとか、実在した人物を描いた作品が強いといわれていることから、これも全く分からない…というのが本当のところです。
鈴木 「デューン 砂の惑星PART2」はないねって、感じしてくるね。
荒木 ああ、そうね…ちょっと難しいね。公開時期も前だったから、その辺のところはどうなんだろう。以上がアカデミー賞の大まかな状況だったんですけど、わかんないってことです。ということで、今日は作品賞候補の中から2作品紹介しましょう。
鈴木 それは、荒木さんが注目しているふたつってことですか?
荒木 それもありますね。まず、2月28日公開の「名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN」。

鈴木 来たね!
荒木 アカデミー賞で作品賞をはじめ計8部門でノミネートされています。
もう説明することないですよね。ボブ・ディランの若い日を描いた伝記ドラマです。
ハリウッドのプリンス、ティモシー・シャラメが若き日のボブ・ディランを演じて歌うということで話題になっていますよね。ストーリーと言ってもディランを知っている人たちならご存知でしょうけど、1961年に本名ロバート・アレン・ジマーマンが、北部ミネソタからヒッチハイクでニューヨークに到着し、やがて「フォーク界のプリンス」と祭り上げられ、やがて自分の進む道に悩むようになるというね、その中で彼がある決断をする1965年の、あのイベントまでの足掛け5年間だけを描いています。
鈴木 エレクトリックになって行くわけですよね。
荒木 5年間の彼の成長、社会の変化、人間関係の流れをわかりやすい時系列でみられるんで、ボブ・ディランがいかに才能を開花させたかにフォーカスしている作品です。あの頃は社会が冷戦激化で、騒然としていた時代を描いています。まずシャラメの演技。これが誰に聞いてもシャラメがディランで、ディランがシャラメで、どっちがどっちかわからないって。
鈴木 素晴らしいね!凄いね。
荒木 凄いですよ。あの要領を得ない返事があるじゃない?それから目元や何気ない表情とかちょっと猫背で、本物が演ってんじゃないかと思うくらい。顔が全然違うのに。
鈴木 そこが凄いんだよね、こういう伝記ドラマって。
荒木 そうなんですよねぇ。歌もティモシー自身が歌っていて、ディランの歌い方の再現度は凄いですよ。しかも事前録音じゃなくて現場でライブで歌っているんだそうです。彼は5年間も音楽の猛勉強とディランになる為のトレーニングをしたそうですよ。
鈴木 ということはクランクインの5年も前から決まってたということですか。
荒木 そういう事です。ちょうどコロナの時期だったんですね。そしてギターとハーモニカ両方を完璧にマスターしています。
事実に基づいた映画なので出てくるアーチストも実在した人ばかりで。例えば助演男優賞でピート・シーガー役のエドワード・ノートンがノミネートされていますし、助演女優賞にはジョーン・バエズ役のモニカ・バルバロ。あの透き通るような高音の歌を見事に再現しています。他にジョニー・キャッシュとか、ウディ・ガスリーとか出て来てます。
ボブ・ディランのもっとも重要な5年間を描いた映画なんですけど、ボブ・ディランって何だったのかな…って。まだ生きているから何だったというのはあれですけど、何者なのかということをちょっとお洒落に言うと、「友よ、答えは風の中にはなく、この映画にあるよ」というところでしょうね。
鈴木 風に吹かれちゃいますよ、そんなこと言うと。
荒木 「名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN 」、2月28日公開です。
鈴木 荒木さんの年代を考えたら、ディランってもう知ってるわけでしょう?リアルタイムで。
荒木 はい、リアルタイムです。
鈴木 日本にいても衝撃でしたか?
荒木 衝撃ですよね。あの当時はいろんな人がいましたからね。でも、ディランがひとつ光ってましたよ。
鈴木 いいなあ、それを体験出来てるって素晴らしいな。

荒木 続いて、注目作2作目です。3月7日公開の「ウィキッド ふたりの魔女」ですね。この作品の前提は皆さんご存じだと思うけど「オズの魔法使い」。
ドロシーがオズの国に迷い込むというお話ですが、そのずーっと前にこのオズの国を舞台にした「悪い魔女」と「良い魔女」の過去を描いたものなんです。「ウィキッド」というタイトルで大ヒットしたブロードウェイミュージカルで、20年以上愛され続ける作品です。日本でも「四季」とかでやってましたよね。
鈴木 やってましたね。
荒木 それを今回映画化したものなんですよ。「西の悪い魔女」となるエルファバと「善い魔女」となるグリンダのミュージカルです。このふたりの少女時代からの友情と成長を裏の歴史と共に明らかにしたものです。
鈴木 面白いじゃないですか。
荒木 エルファバとグリンダ。肌の色から周囲から誤解されている内気なエルファバと美しく人気者のグリンダはルームメイトになるんですね。見た目も性格もまったく異なる2人は最初は激しく衝突するのですが、だんだん友情を深めてかけがえのない存在になります。その中でエルフォバは魔女としての能力を次第に発揮して、英才教育をされるというところから始まります。エルファバ役にはエミー賞、グラミー賞、トニー賞でそれぞれ受賞歴を持つ実力派のシンシア・エリボ。グリンダ役は今更説明する必要もないアリアナちゃんですよね。その他、ミシェル・ヨーや、ジェフ・ゴールドブラムが出ています。
鈴木 豪華ですね。
荒木 豪華です。とにかく2人の歌唱力が半端ではない!圧巻です。表現の仕様が無いくらい。普通、ダンスシーンに合わせて歌を先に録音してそれに合わせて撮影するのですが、ふたりともほとんどが生歌で取られたそうです。
鈴木 リアルタイムでやってるってことですか!凄い!
荒木 曲も素晴らしい楽曲のオンパレードです。オープニングが「ノー・ワン・モーンズ・ザ・ウィキッド」という曲で、悪い魔女が死んだよ~と、グランデちゃんが歌うんですけどね。もうひとつ最後、この曲かな?流れてる曲~♫~、ラストシーン。「ディファイング・グラヴィティ」って曲。とにかく凄い曲ばかりです。
鈴木 アリアナ・グランデの新譜よりも、こっちのサントラの方が売れてるって流れです、今。
荒木 そうなんですか!
鈴木 そうそう!だから凄いっすよ。こっちの曲は。
荒木 ふたりとも、先週来日してましたよね。3月にはオリジナルサウンドトラックが発売されますね。この番組でもダイちゃんがかけると思うんですけど。映像も素晴らしいですよ。大掛かりなセット、豪華な衣装、大人数のダンス、映像は外連味溢れる大豪華な作品ですよ。
鈴木 その口ぶりは取りそうじゃないですか!作品賞。
荒木 どういう風に判断されるかですね。これはミュージカルですからね。映画としてどうなんだってことがあるんですけども。でも映画ですから俯瞰で撮るシーンがあったり、カメラの寄りと引きをちゃんと使ってて、映画ならではの立体的表現が凄いですよ。そういう意味では舞台芸術と映像表現を掛け合わせた素晴らしさってのがあるかもしれない。2時間40分あるんですけども。
鈴木 長いですよね、ちょっと。
荒木 そればかりじゃなくて社会的視点。例えば、肌の色の問題とか反ファシズムの要素まで入っていると思います。アカデミー賞では作品賞のほかシンシア・エリボの主演女優賞、アリアナ・グランデの助演女優賞、合計10部門にノミネートですね。ちょっとアリアナの出番が多い感じさえしますから、ダブル主演っぽいですね。
鈴木 そうですよ、そんな感じがする。
荒木 ところで、この映画はパート1。ふたつに分かれてる前半なんですよ。
鈴木 後半も長かったら凄いなあ。
荒木 後編は、アメリカでの公開が今年の11月で日本は来年の今頃かな?
鈴木 年明けくらい?
荒木 早くやってくれないと忘れるから待ち遠しいですよね。
鈴木 そうですよ。
荒木 ということで3月7日公開。「ウィキッド ふたりの魔女」という候補をお話しました。アカデミー賞の直前情報でした。
鈴木 じゃあ、「アイム・スティル・ヒア」、「ニッケル・ボーイズ サブスタンス」はアカデミー賞ないってことですか。
荒木 う~ん、どうかなぁ。まだ私も見てないんで今週公開かな。
鈴木 楽しみですね。
荒木 楽しみですよね。
鈴木 芸術が賞として評価されると、こっちから見ていると面白いからね。
荒木 ただ、これは業界内部の賞ですからね。外からこれがいいって言ってるんではなくて、いわば学級委員をクラスメイトが選ぶみたいな(笑)。そんなこと言うと怒られちゃいますけどね。
鈴木 なるほど。でもそうですよね。
荒木 ま、身内のショーということですので、これが全てというふうには考えなくていいと思います。
鈴木 色々詳しいご説明、ありがとうございました。

■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年生まれ。長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。
■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。