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映 画

第97回アカデミー賞 最多5冠「ANORA アノーラ」のとっておき情報
(2025年3月8日10:00)
映画評論家・荒木久文氏が、現地時間3月3日、ロサンゼルスで開催された第97回アカデミー賞で最多5冠を獲得した「ANORA アノーラ」のとっておき情報を紹介した。トークの内容はFM Fuji「Bumpy」(月曜午後3時、3月3日放送)の映画コーナー「アラキンのムービー・ワンダーランド」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。
鈴木 今日は、アカデミー賞でしょう!よろしくお願いします。
荒木 第97回アカデミー賞。2時間ほど前までロさんゼルス・ハリウッドのドルビーシアターでの授賞式。ご覧になった方もいて結果をご存じの方もいらっしゃるでしょうが、今日はこの話題ですね。
鈴木 バッチリです。
荒木 結果をお知らせする前に先週もお話した注目点を一応復習しておきます。昨年は「オッペンハイマー」が前評判も良くて本命ということで、その通り7部門で受賞しました。ところが今年は打って変わって混戦でぐちゃぐちゃ。
ノミネートが一番多かったのは「エミリア・ペレス」です。これが12部門13ノミネートということだったんですけど、作品賞では私が勝手に4作品がビック4だと言いましたよね。覚えてますか?
鈴木 覚えてますよ。「ANORA アノーラ」「ブルータリスト」「名もなき者 A COMLETE UNKNOWN」「ウィキッド ふたりの魔女」じゃなかったっけ?
荒木 おっしゃるとおり。
鈴木 でしょう!覚えてる。
荒木 さすが・・ということだったんですが、結果的には「ANORA アノーラ」が全部制覇しちゃったと言っていいでしょうね。
鈴木 制覇しちゃった(笑)!

荒木 そうなんですよ。「ANORA アノーラ」が予想以上っていうか予想通りという人もいるんですけどね。まず作品賞が「ANORA アノーラ」でしたね。「ブルータリスト」、「名もなき者 A COMLETE UNKNOWN」を抑えての作品賞。
鈴木 これは荒木さん的には全くもって大歓迎!いいんじゃないんですかって感じですか?
荒木 あとでちょっと話しますけど。
鈴木 じゃあ、あとにしましょう。
荒木 私は、ちょっと別のものを用意してまして(笑)。で、結果ですが、主演男優賞がエイドリアン・ブロディ、これは「ブルータリスト」。「戦場のピアニスト」についで2回目のオスカーですね。
ティモシー・シャラメ、残念でしたね。主演女優賞が「ANORA アノーラ」のマイキー・マディソン。初ノミネートで初受賞です。
鈴木 おお、すばらしい!おめでとうございます。
荒木 助演男優賞がキーラン・カルキンで「リアル・ペイン~心の旅~」。
マコーレ・カルキンの弟さんですよね。初ノミネートで初受賞です。それから助演女優賞がゾーイ・サルダナ、「エミリア・ペレス」です。脚本賞、監督賞がショーン・ベイカーで、「ANORA アノーラ」です。他にはあまりないよね。
鈴木 ないですか!(笑)!
荒木 編集賞も「ANORA アノーラ」でしたし。「ウィキッド ふたりの魔女」に関しては衣装デザインとかね、そちらの方がメインで、内容的には掬われなかったという感じはしますよね。美術賞もそうですよね。今申し上げたように、私がこっそり予想していたのが、外の評判ではなくて…。あ!今言ったのは大体直近情報だとみんな有力なのが入ってましたね。主演男優も、主演女優も。
鈴木 そうなんだ。
荒木 うん。私は、自分の好みで選ぶ感じで予想はしてたんですけど、自分が見ただけの基準、
鈴木 それでいいです。
荒木 作品賞が「教皇選挙」でした。主演男優賞はティモシー・シャラメ。主演女優賞はデミ・ムーアね。助演男優賞がジェレミー・ストロング。
鈴木 「アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方」の?
荒木 そう。予想したんですけど、ちょっとだめでしたね。あと…。
鈴木 助演女優賞?
荒木 助演女優賞はアリアナ・グランデちゃん。監督賞だけはショーン・ベイカーでね、当たったんですけど。ちょっと私の予想とはだいぶ離れてましたね。ダイちゃんはどうでした?
鈴木 荒木さんのお話伺ってると荒木さん仕事的にしっかり予想したというよりは、匂い的には自分の好みを優先したようなセレクトですよね。
荒木 まあ、そうです。
鈴木 じゃあ、ハズレることもあるよね、どう考えても。
荒木 まあ、自分の好みだからね。報知映画賞なんかでも自分の好みで言うと全部ハズレですね(笑)。
鈴木 あはははは。まあグラミー賞もそうですもん、僕も大体。
荒木 大体、そんなもんですよね。
鈴木 作品賞の「教皇選挙」を荒木さんが選んだのって、何がそこまで心に響いたんですか?
荒木 非常に重厚なドラマで、昔の審査員ていうか、投票者だったら全員これに行くでしょうね。
鈴木 ウワァーオー!
荒木 如何にも昔のアカデミー賞のアカデミー賞作品らしい作品で、非常に重厚でサスペンスなんですけど、最後の謎解き、落ちも「えっ!?」っていう現代的なテーマも含んでいて面白い作品でした。
鈴木 昔だったらっていうのが選ばれないっていうのは、音楽賞もそうですけど、だいぶセレクトのセンスというか匂いが変わってきてますよね。
荒木 変ってきてますよね。やはり、人種が多様、沢山になったのと世界中から登場というので、変わってくるんですよね。昔はもう白人のね…。
鈴木 そういう感じでしたもんね。




荒木 今日1本、紹介したいのは作品賞を取った「ANORA アノーラ」です。
今回は、作品賞、監督賞、主演女優賞、助演男優賞、脚本賞、編集賞と6部門ノミネートで5部門取ったんですよね。
あらすじです。アノーラはニューヨークのブルックリンにあるクラブでストリップダンサーとして働いています。ストリップと言っても客との対面接触もあるちょっときわどい商売なんですね。
アノーラはある日、ロシア人の御曹司のイヴァンを客に取ります。実はアノーラ自身もロシア系アメリカ人という設定なんでこの息子に一瞬で気に入られてしまうんです。
彼がロシアに帰るまでの7日間、多額の1万5千ドルで“契約彼女”になることになるんです。
鈴木 「プリティウーマン」みたいだな。
荒木 そうです、おっしゃる通りです。要するに大金持ちのバカ息子に見初められたんですね。
鈴木 あはははは。そういうことだね。
荒木 2人は燃え上がっちゃって燃え上がるような恋になって、よくある話で、一気に結婚することになりました。ここまでは、まごう事なきシンデレラストーリーなんですけど、そんな上手くいくはずないんで。イヴァンの両親が結婚取り消しを求めてどうにか別れさせようとロシアから乗り込んで来るんです。さて、アノーラとイヴァンの運命はどうなるのかと。厳しい現実を前にアノーラの物語が幕を開けます…というお話です。
鈴木 なるほど、面白そう。
荒木 アノーラを演じるマイキー・マディソンという人はほぼ新人さんなんですよ。まあ、これまでちょこちょことは出ていたんですけども、今回文字通りのシンデレラ・ガールですね。ロシアのバカ息子御曹司を演じるのは、ロシアのティモシー・シャラメと言われているマーク・エイデルシュテインという人です。この人も注目です。
よく似ています。もうひとり、ロシア人でノミネートされたのが50年ぶりという男優賞でユーリー・ボリソフという人です。この人もノミネートで注目です。スターがいてもいなくてもこういった作品を盛り上げているのが、監督賞受賞のショーン・ベイカーなんですね。この人は、ブッキングの天才と言われているんですよ。

鈴木 へぇー。
荒木 今回もそうですけど、前の作品の「レッド・ロケット」でも無名の俳優さんを起用してその魅力を十分に引き出していました。なんかね、ハンバーガーショップで隣に座った女の子に声かけて主役にしちゃったりするらしいですよ。
鈴木 へぇー!
荒木 それで魅力を引き出すっていうその辺りも有力な監督ですよね。
鈴木 最近の洋画を見ているとね、エンドロールあるじゃないですか。
荒木 はい。
鈴木 あれに、キャスティングっていう文字が結構大きめに出ているのに気づくんですよ。
荒木 キャスティング・ディレクターね。昔はキャスティングディレクターっていなかったんですよ、監督・プロデューサーがやってたんですけど。今は監督の企画意図を得た専門のディレクターがいますよね。
鈴木 大事なんだね。
荒木 この監督はどの作品も切れのいい演出っていうか、内容的にはお下品で、ちょっとばかばかしいんですけど非常にテンポがよくて、社会と人間をよーく描いていると言えると思います。本当に面白かったですし私も好きな監督です。
ダイちゃんも、これ是非見て欲しいと思います。
鈴木 見ます。
荒木 映画の話に戻って、アノーラ前半はストリップクラブの怪しい雰囲気で、怪しいライトとかね、エロっぽい感じなんですよ(笑)。テンション上がりますよ、見てると。
鈴木 あはははは。テンションあがりますか(笑)!
荒木 上がります(笑)! このヒロインがですね、ゴリゴリのストリッパーなんですけど純粋なんですよ。この御曹司のこともはじめは金がらみだったんですけど、だんだん好きになって。
鈴木 本気になるんだね。
荒木 うん、ちょっと頭は弱そうなくらい純粋なんですね。派手な世界に身を置いて派手なお金を手に入れても、ずっと純粋なところがあるというね。
鈴木 いいじゃないですか!
荒木 そういうところは、共感できるんですよ。もともと、さっきダイちゃんが言ってたみたいに貧しい女性が裕福な男性に見初められる、だけどセックスワーカーとしてそれに近い社会的スティグマというのかな、差別みたいのがあってちょっと偏見のあるコールガールとかそういう女性が金持ちに見初められていくっていうのは、もう「マイ・フェア・レディ」ですね。
鈴木 ああ!「マイ・フェア・レディ」、そうだよなぁ。
荒木 他にも、コールガールが劇作家に才能を見出されて人気女優になっていくというイモージェン・プーツの「マイ・ファニー・レディ」というのもありましたね。
鈴木 ドラマにしやすいんだね。
荒木 確かにね。多分その辺りにオリガルヒとか、ロシアの新興財閥ね。そういうところも全部入れて攻めてきますのでこれ結構面白いです。
鈴木 どうなんですか。ロシアだからって区別、差別するわけじゃないんだけど、何となく闇とか、何となく危うさみたいなものを、結構感じる展開なんですか?
荒木 おおありです!マフィアですよね。
鈴木 もろ、関わってるわけね。
荒木 そうなんです。オリガルヒっていうのは、そういうのもあるからね。
内容は、予想以上にエロティックです。
鈴木 へぇーー。
荒木 お尻のドアップから始まってでも本当に美しいんですよ。この人25歳かな。女性の体の美しさ本当に強調して出す商売だから、照明もいいし、ストリップのステージにいるような感じですよ。ただ、最後、女性としてどういう判断を下すのかっていうを見ると非常にグッとくるというね。
鈴木 えっ? ハッピーエンディング、バッドな感じなんですか?
荒木 まぁ…、それはちょっと言えないので、見ていただきたいと思います。
鈴木 あはははは。
荒木 そういう意味で作品賞に相応しいと、私が言うのも僭越なんですけど、そういう作品だと思いです。
鈴木 へぇー、必見だなぁ。
荒木 で、この映画の中に流れる曲沢山あるんで、サントラ的にも注目なんですけど、あとでダイちゃんから紹介していただきたいと思います。
鈴木 1曲かけたいと思います。
荒木 お馴染みの曲が流れてますからね。
今後の注目作ですが、3月7日から「ウィキッド ふたりの魔女」。これも素晴らしい作品でした。3月20日からは、私がいいなと思った「教皇選挙」ですね。それから3月28日から「エミリア・ペレス」です。大作が控えてますんでちゃんと計画的にお金を貯めてね(笑)。
鈴木 あはははは。
荒木 いずれも、スクリーンで見ないと残念な作品です。
鈴木 わかる、わかる。必ず見ましょうね。
荒木 今日は、97回アメリカアカデミー賞の結果を中心に作品賞受賞した「アノーラ」をご紹介しました。音楽的にも面白い作品なんでダイちゃん好みだと思うんで、見ていただきたいと思います。
鈴木 ありがとうございます。

■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年生まれ。長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。
■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。