-
映 画

「ジェリーの災難」「悪い夏」のとっておき情報
(2025年3月22日10:00)
映画評論家・荒木久文氏が、「ジェリーの災難」と「悪い夏」のとっておき情を紹介した。トークの内容はFM Fuji「Bumpy」(月曜午後3時、3月17日放送)の映画コーナー「アラキンのムービー・ワンダーランド」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。
鈴木 よろしくお願いします。
荒木 もしもし…、鈴木ダイさんですか?
鈴木 私、鈴木ダイですけど…。
荒木 こちら荒木弁護士事務所といいますけど、鈴木さん、あなたはあるサイトをよく見てますよね? 利用されてますよね。
鈴木 してるような、してないような…。あなた、誰ですか?
荒木 弁護士です。
鈴木 弁護士?
荒木 心当りがあるでしょ。未払いがあるんですよ。相手の会社さんから告訴されましたんでこのままだと逮捕されます。時間の問題です。
鈴木 えっ!ちょっと待って! あのサイトお金かからないって書いてあったから…。
荒木 いや、かかるんですよ。
鈴木 かかるの?
荒木 はい。逮捕されます。が、私共の弁護士事務所に任せていただければ、なんとか逮捕は免れるようにしてあげますので、30分以内に50万円をお支払いください。
鈴木 30分以内に50万円を!?
荒木 はい、そうすると逮捕されませんので。
鈴木 5千円になりませんか?50万円。
荒木 ダメですね。
鈴木 ダメですか?
荒木 はい。…ということで、荒木事務所じゃあ始めからインチキと思われましたよね(笑)。
鈴木 もう~、荒木さん、長い小芝居止めて! 実際にHなサイト見たの思い出したもん。
荒木 そうでしょう。電話じゃなくても、こういったメールはしょっちゅう来ますよね。
鈴木 来ますよ!毎日凄いですよ。
荒木 怖いですよね。最近はミャンマー国境の国際詐欺団のニュースもありましたしね。周りに詐欺が溢れてますよね。私も時々詐欺師じゃないかと言われますけど。
鈴木 いやそれわかる…、そんなこと言ってる場合じゃなくて今日は何なんですか?
荒木 こんな小芝居をしちゃったのはですね(笑)、「詐欺犯罪」にする映画を紹介するからです。
鈴木 そういう前振りなのね、これ(笑)。

荒木 ちょっと懲りすぎちゃった。3月20日から公開する「ジェリーの災難」という作品です。長年アメリカに住んでいる、ジェリーさんという69歳のおじいちゃんなんですが中国から渡ってきた中国系アメリカ人です。アメリカで成功することを夢見てきたのですが、大成功としたとは言えずとも、普通に生活し普通にお金も貯まってるんですね。定年退職後、妻と離婚して3人の息子とも離れてひとりで暮らしています。
あるそんな彼のもとになんと中国本土の中国警察から緊急の電話がかかってくるんです。ジェリーさん本人が国際的なマネーロンダリング事件捜査過程で第一容疑者になっていて、逮捕されるかもしれないよ、と知らされます。逮捕されたら中国に強制送還されると言われたジェリーさんは、中国警察のスパイとして事件の捜査に協力させられることになります。銀行の出入りの様子を伺ったり、さらには隠しマイクを着けて窓口係を調べたりですとか、そんな操作を手伝うということですね。
鈴木 おとり捜査みたいなもんじゃないですか。
荒木 そう!その上ちょっと違うなと思いながらお金もテストで送れとかですね、自分のお金もどんどん送金させられてるんですね。誰にも言わず家族にも隠していたんですけど、さあ…どうなることやら。
鈴木 怖すぎる!ヒヤヒヤじゃないですか、それちょっと。
荒木 そうなんですよ。特殊詐欺にあった話なんですね。実話です。このジェリーさん、自分で脚本書いて自分で主演して映画にしてるんです。
鈴木 それ、よほど悔しかったんじゃないですか。
荒木 あはははは。その映画がいろんな映画祭で、40もの賞にノミネートされて、ものによっては最優秀男優賞も取っちゃってるんですよね。
鈴木 あらーっ!
荒木 自分の体験なんですけどね。
鈴木 多才ですね。
荒木 すごいのはこのお爺ちゃんは災難に遭ったけど、それをネタにして人間の立ち直る力ととか困難を映画という形で見せたということなんですよ。
中国人は転んでもただじゃ起きませんね。
鈴木 すごいね!バイタリティ。
荒木 なかなか打ち明けられないってこと、あるんですね、騙されたとわかっても。
鈴木 お金絡むと言えないよ。
荒木 そうなんですよ、特に高齢者。詐欺に引っかかったった高齢者。私のような高齢者は日本も毎日のようにニュースありますよね。リフォーム詐欺とか医療詐欺とか。
鈴木 悩んでる方はこの瞬間も凄いいると思いますよ。
荒木 日本の被害総額どのくらいだと思います?
鈴木 全部足してですか?
荒木 うん。
鈴木 30億。
荒木 そんなもんじゃない。440億ですよ。
鈴木 イヤ!無理無理。
荒木 韓国は600億って言われています。65歳以上の年寄になると私もそうなんですけど、若い人に従わなきゃダメだなって思う時がありますね。いろんな面で判断力とか。そのクセ、私なんかもそうですけどプライド持っちゃってるから、人に相談するって恥ずかしさがあるんですよね。
鈴木 荒木さ~ん、ちょっと私たちに相談してー。
荒木 恥ずかしくて、相談できないことばっかしだよ。
鈴木 荒木さん、今までの人生で恥ずかしい事、多かったんだから、そんな、今更恥ずかしいって…。
荒木 決めつけないでよ。私は正々堂々と生きて来たのに。恥ずかしい事なんてひとつも…あるか。
鈴木 あるでしょ!
荒木 特殊詐欺の手を替え品を替えられ、口上手だから本当に騙されちゃうんですって、やっぱり。だから家庭内とか友だちに相談するのはすごく大事なんですね。
他にも独身で結婚したい人が引っ掛かりやすいのがロマンス詐欺ね。
鈴木 はいはい、それ昔からあるんですもんね。
荒木 「クヒオ大佐」という映画もありました。「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」っていう映画もそうだったんですけど、ロマンス詐欺には気をつけてください。横道にばっかりそれてますね(笑)。
3月20日から公開の「ジェリーの災難」、見て勉強してください。
次はこれも犯罪がらみなんですが、3月20日公開のタイトルが「悪い夏」という作品です。

鈴木 悪い夏!
荒木 はい悪そうですよ。この映画のキャッチコピーは「公務員、闇堕ち」。そして「クズとワルしか出てこない!」。この番組みたいですね。
鈴木 いやっ、おいっ!って!
荒木 (笑)ということで、北村匠海くんが主演なんですね。サスペンスエンターテイメントというんですかね。佐々木守くんという、北村匠海くんが演ってる26歳。
彼は市役所の福祉課に勤めています。いわゆる生活保護関連のケースワーカーということです。生活保護受給の判断とか管理をしているんですけども、ある日彼は同僚の女性から、職場の先輩の男性が生活保護受給者の女性に肉体関係を強要しているらしいという相談を受けるんです。
鈴木 ありそうだわ。
荒木 彼は「え~?面倒くせーな」と思いながら断りきれずに調査をすることになるんです。そうするとその当事者、つまり先輩の男から迫られているらしい生活保護受給者のシングルマザーの愛美ちゃんという、河合優実ちゃんがやっています、彼女の家を訪ねると彼女は「いえ、そんなことはありません」と否定されるんです。
でも、度々彼女を訪ねるうちに愛美との交際に発展してしまうんです。
ところが、これ、実は裏社会のヤクザ、窪田正孝さんがやっているんですけども彼が仕組んだ罠だったんですね。
鈴木 手の込んだ、ハニートラップじゃないですか。
荒木 そうです。それをきっかけに 実に真面目に生きてきた気弱な公務員の守くんがどんどんどんどん転がるように破滅への道へ転落していくということを描いたのがこの長くて暑い悪夢のようなタイトルの「悪い夏」という話ですね。
鈴木 悪いですねー、その夏は。
荒木 ほんと悪いですよね。城定秀夫さんが監督、向井康介さんが脚本を担ってるんですけど。原作は染井為人さんのミステリーなんです。横溝正史ミステリー大賞優秀賞を受賞した作品なんですけど。あの「正体」という映画がありましたでしょ?
あの原作もこの人なんですよね。この染井さん、芸能マネージャーとか舞台演劇とかミュージカルのプロデューサーなんかもやっていろんなことをしてデビューした人で。
鈴木 じゃあ、表も裏も知ってるんだ。
荒木 そうそう。この人の作品私もファンなんです。この「悪い夏」も早いうちに読んでますけど、映画の方が少し柔らかくしてありますね。そもそも小説では主人公の佐々木守くんのイメージ、北村くんがやってるんですけどカッコ良すぎてですね、
私のイメージだと、ドラえもんののび太くんを26歳にしたような、あんな気弱なイメージですね。だけど北村くんがやると最初から北村くんの方がよかったねって思うような感じですよ。
鈴木 出た!それ、映画マジックに確実に騙されてますよね。
荒木 初めから、彼しかいないような感じ。
鈴木 うわぁー
荒木 映画の方はどちらかというと笑いもあったり。だから悲劇と喜劇が同居しているっていうかね。中身は生活保護不正受給から始まって、育児ネグレクト、恐喝、万引き、売春、無理心中、暴力、殺人・・・。考えられる限りのこの世の不幸や犯罪が、本当にすし詰めなんですよ。
鈴木 そういう犯罪は我々の隣合わせにあるんですよね、普通に。
荒木 あるんですよ、我々が知らないだけで。それがひと夏であのジメっとした暑さ。夏って気持ち悪い部分あるじゃないですか。また、もともと北村さんて目に力のある役者さんで目の演技が凄いですよ。だんだんだんだん眼が力を失っていくっていうところがとても面白かったし、河合優実さんも昨年に引き続いて今年も大活躍かなと思わせる演技でしたね。とにかくまともな人間出てこないです。まあ悪さの強弱はあるにしろ、悪い奴しか出てこないとね、いろんな種類の、本当いろんな種類のクズを見られるクズの動物園でしたよね。
鈴木 人は、大なり小なり悪さって持ってますもん。
荒木 それはそうですね。あとは、社会的テーマで生活保護の問題がありますね。セイフティネットとしての生活保護がテーマになっているんですけども生活保護の不正受給問題があったり、逆に苦しくても生活保護の受給ができない人もいる。
この現実をちゃんと描いててそれを見ると本当に苛立ったりしますよね。いろんな人間の弱さだとか、制度の弱さみたいなものを同時に見せつけられたような映画でしたね。
3月20日公開の日本映画、「悪い夏」を紹介しました。
今日は、私たちに相応しくない犯罪映画をご紹介しましたけど(笑)。
鈴木 俺、家に帰って、パソコンのお気に入りの登録確認しちゃうよ。
荒木 そりゃあもう止めた方がいいですよ、ウィルスも入って来るし。
鈴木 もう止めます、本日限り…。荒木さん何言ってるんですか! 最初と最後、そんな話で締めるの止めてくださいよ。
荒木 でも、見たいよね。
鈴木 ありがとうございました。

■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年生まれ。長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。
■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。