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映 画

「教皇選挙」「Flow」のとっておき情報
(2025年3月31日9:15)
映画評論家・荒木久文氏が、「教皇選挙」と「Flow」のとっておき情報を紹介した。トークの内容はFM Fuji「Bumpy」(月曜午後3時、3月24日放送)の映画コーナー「アラキンのムービー・ワンダーランド」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。
鈴木 よろしくお願いします。
荒木 3月はアカデミー賞だったんですけど、日本での公開作品がほぼ済みまして最終ランナー的2本って感じで紹介したいと思います。
鈴木 楽しみです。

荒木 「教皇選挙」。先週から公開されています。教皇は教えるに皇帝陛下の皇ですね。カトリックの最高指導者トップのお坊さん、ローマ教皇のことです。昔はローマ法王と言ったよね。
鈴木 ローマ法王来日だとかいろいろ言ってましたよね。
荒木 私たちにはこちらのほうが親しみやすいですよね。今は「教皇」と言うんですけど、昨日ですか、今のローマ教皇のフランシスさんが一時危険と言われてましたけど退院して。よかったですね。今更いうまでもないですがローマ教皇とは、ご存知のようにキリスト教最大の教派のカトリック教会であるところのカトリック教徒14億人の頂点ですね。いわゆる神の代理人的な存在です。国際的な強い影響力を持つのはダイちゃんもご存知の通りです。
鈴木 はい。
荒木 「教皇選挙」とはコンクラーベといい「秘密の場所」という意味なんですけど教皇が死んだ時に新しい教皇を選ぶ儀式というか、選挙制度ですよね。
この作品はその選挙をめぐるすごいミステリーです。
あらすじを簡単にご紹介しますね。
カトリックの総本山、バチカン市国の元首であるローマ教皇が亡くなります。
新しい教皇を決める教皇選挙「コンクラーベ」に世界中から100人を超える候補者が集まります。枢機卿と俗に呼ばれる人、聞いたことあるよね?
鈴木 もちろんです。
荒木 その位の高いお坊さんたち)が集まって、有名なシスティーナ礼拝堂を封鎖して秘密の投票がスタートするんですね。
鈴木 そこからして怪しいよう~。
荒木 そう!怪しい。外からの電話も新聞も連絡は全部断つんですよね。
その中でひとりの枢機卿が全体の3分の2の票を獲得するまで何日も、下手したら何週間も投票が繰り返されるわけです。それまでみんな誰も外に出られないんですよ。
その中で生活するわけですね。決定した時と決定しない時とは・・有名ですよね。
鈴木 あの、煙がでるやつ、色違いのね。
荒木 煙突から出る煙。黒い煙は?
鈴木 決まってないだっけ?
荒木 そうそう。白い煙が…。
鈴木 決定しましたよっていう。
荒木 ちなみに12年前がコンクラーベでしたね。
鈴木 2013年ってことですか?
荒木 そうです。映画の話しに戻りますが、投票は票が割れ時間がどんどん過ぎてゆく中で、水面下で有力候補である枢機卿同士のさまざまな陰謀、差別、スキャンダルが明らかになっていきます。選挙を執り仕切っているのはローレンス枢機卿といいます。彼は亡くなった前の教皇の最側近でいわば選挙管理人なんです。この人が仕切るんです。そして、よく政治家が言うところの候補者の身体検査もするわけですよ。
その候補者に不道徳な行いはなかったか。ま、昔もいろいろありましたよね。
鈴木 はいはい。
荒木 その他にも不倫とか人種差別主義的考えはないのかとか、教皇になってからバレたら大変なんで。
鈴木 なるほどーそうか。
荒木 いわゆる身体検査ですよね。そういう役目を負って不適格者を排除してゆくわけですね。そして選挙が最終盤に差し掛かった時、彼はある重大な秘密を知ることとなる…というお話です。
鈴木 うわーっ。
荒木 前にも言いましたが 私、アカデミー賞作品賞はこの作品以外ないと思っていました。
鈴木 おっしゃってましたよね。
荒木 はっきり言って、それほどの傑作です。
鈴木 それほどの傑作ですか?
荒木 はい(笑)。ま、ミステリー的要素が強いんです。選挙が進むにつれて驚く事実が何回も何回も出て来るんですよ。最後はほんとにびっくりします。完成度としてはミステリーとしては今年一番だと思います。驚きのエンディングはちょっと教えたくて仕様がないんですが。
鈴木 教えませんか?
荒木 教えません。
鈴木 教えませんね。
荒木 はい。逆にミステリー要素が強すぎてアカデミー賞の作品賞をのがしちゃったのかなと言う声も聞きます。
鈴木 これ、実話に基づくもなにも全部脚本、脚色なんですよね?ドラマなんですよね?
荒木 ドラマです。ドラマですけど、たけど…っていうのは何故かというと、なぜ、それだけ注目されてるのかって言うと、昨日退院したアルゼンチン出身のフランシス教皇がこの亡くなった教皇のモデルと言われているんです。だから今の時代っていうか、現実を反映してるんですね。
鈴木 亡くなったらそういう事が起きるかもよってことですか?
荒木 そうなんですよ。候補者たちは・・人間3人集まると派閥ができると言いますが、神に仕える人たちもそんな世俗的なものとは関係ないと思うんですけど、やっぱり政治的闘争が、派閥が存在するわけです。
鈴木 神様が見てて、それって どう思うんですかね?
荒木 本当ですよね。今風に言うとリベラルと保守というか、今のアメリカの状況と全く同じですよ。まあ、例えばリベラル派は時代とともに考えが変わってゆくので、LGBTQなんかも認めて行くべきだと考えているし、保守派は神は男と女しかないという考え方ですよね。今のフランシス教皇、昨日退院した人はリベラル派だと言われています。LGBTQに対しては柔軟ですしイスラエルのガザ爆撃にも批判的な立場を取っています。
当然反対派もいます。そういう背景もあってこの作品なんで日本の与党の総裁選挙と同じようなパターンになるんですけど。政治的駆け引きや情報戦、足に引っ張り合い。黒人の候補者もいるですけど、影では黒人の教皇なんてありえないだろうという人もいる。
鈴木 ある意味そうですよね。歴史もあるし。
荒木 聖職者もまた人間であるという、当然のことを思い知らされます。
見てると。それ自体が今の世界の断面図とも言えるんですよね。
鈴木 人間界の縮図みたいだよね。
荒木 そうなんですよ、まさにこれは、作家のロバート・ハリスさんの小説を、ピーター・ストローハンという人が脚色ものです。アカデミー賞でも8部門にノミネートされて、脚色賞などを獲得しています。出てくるのはダイちゃんお馴染みレイフ・ファインズ。
鈴木 出たー! 「007」のⅯをやったあの人よね。
荒木 あと『ハリー・ポッター』の怖かったヴォルデモート卿もそうですよね。
鈴木 名優っていうか、有名な超人気な名優ですよ。
荒木 名優ですよ。彼の芝居によって一層奥行が生まれてるんじゃないかと思います。他にもスタンリー・トゥッチとかね、名前知らなくてもこの人どっかで見た!って人いっぱい出ていますね。この『教皇選挙』は中世から何世紀にも渡って行われてきたコンクラーベの舞台裏を描いた素晴らしいミステリーであると同時に極めて近代的と言うか、政治ドラマでもありますね。だから、私は何回も言うけど今観るべき映画だと思います。
鈴木 中に入ってみたら、スマホで投票してたら大笑いですよね。
荒木 あはは、大笑いですね。
鈴木 トイレに行きながら、トイレに座りながらこいつに一票みたいな。スマホでやってたら面白いですね。
荒木 でも、スマホも電話も新聞も全部見ちゃいけないのね、全く。外界と遮断されるんですよ。その中でやってるという、まるで中世ですよね。
今年に入ってから見た作品の中で、間違いなく、私にとってね、ダントツのトップクラスですね。
鈴木 おおー!スゲー!それは見なきゃ!
荒木 『教皇選挙』現在公開中です。
鈴木 タイトルもズバリ過ぎますもんね『教皇選挙』なんて。
荒木 そうなんですよ、コンクラーベでよかったと思うんですよ。コンクラーベっていうとみんな知らないと思ってるけど、もう一般名詞化してますよ。
鈴木 昔から、根比べコンクラーベってシャレで言ってる人いましたよね。
荒木 ダジャレでね。
鈴木 覚えやすい日本人は、って言ってましたよ。
荒木 ということでした。
もう一本「Flow」という作品をご紹介します。これは自慢じゃありませんが私の予想通りで、堂々アカデミー賞で長編アニメーション作品賞を受賞した作品です。

鈴木 さすがプロ!
荒木 公開中で非常に評価も高い作品です。ラトビアと言う国ご存知ですか?
鈴木 バルト三国のラトビア?
荒木 はい。エストニアとかリトアニアとかロシアの西側にある、そのラトビアの作品ですね。14日から公開されているので見た方多いと思うんですが、非常に印象深い作品です。完全に水に没した世界に直面してしまった猫が生き残るために他の動物たちと力を合わせて生きていくという不思議な世界を描いた作品です。
鈴木 面白い。興味深いな。
荒木 主人公は全身真っ黒な、まだ大人になりきっていない黒猫で人間で言えば青年期かな? タイトルは「Flow」っていう英語なんで 流れと言う意味でしょうか。この猫ちゃんの名前かもしれませんけど、そのあたりは説明がないのでわからないんですけど。この猫ちゃん、水に流されっぱなしなんですよ。名前通り。最初は多分人に飼われていたのでしょうけど人間が全く出て来ないんです。
鈴木 途中から、ノラ猫になった設定なんですか?
荒木 うーん、どうですかね。人間が、人類からいつの間にかいなくなった世界なんです。水がどんどん増えて来て人間はどこかへ脱出しちゃったのか、それもわかんないんですけどね。水が全体を覆ってる世界なんで猫は泳げないから大変なんですよ。
だけど泳いじゃうんですけどね。
鈴木 あはははは。だけど泳いじゃうんですか! 泳げないのに。
荒木 猫ちゃん外に出ていくんですが偶然流れて来たボートに乗り込むんです。そこには他の動物たちが乗っているんですよ。大型犬でしょ、カピバラがいたな。それからメガネザル。あと、ヘビクイワシかな、デカい鳥。それが乗っかっていてちょっとノアの箱舟っぽいところもある。
鈴木 今、それ思った!ノアの箱舟みたいだなって思ったの、人がいないだけで。
荒木 そう、人がいないだけ。その動物たちの間に少しずつ友情が芽生えるんですけど、ただ、動物たちは喋んないんですよ。会話がないの。
鈴木 どうすんの?目で?
荒木 ワンとかニャーとかジーとか言ってるだけ。そういう意味での説明は全く無い。
鈴木 えーっ?!
荒木 「ライオンキング」なんかはみんな喋るでしょう。アニメも写実的でしょう。これ、全く反対にあるんですよね。
鈴木 ワンって言ったら下に字幕とかでないの?
荒木 出ない。
鈴木 えーっ!じゃあわかんないじゃない。
荒木 セリフは・・80分か90分あったんですけど、何言ってるかわかるんですよ。
鈴木 わかるの?
荒木 絵でわかる。
鈴木 へぇ―…。
荒木 正確なのはわかんないんだよ、意思疎通はわかる。
鈴木 じゃあ、見てる観客、それぞれの思いでいいってことなんだ。
荒木 そういう事なんですよ。
鈴木 えっ!そういうことなの?
荒木 逆に考えさせるんですね。特徴は考えさせる映画なんですよ。絵以外に説明がないから、洪水の原因は何なのかこれは何かの試練なのか。最後に大きな石像が出てくるんですけど人間が作ったのなんでしょうけど、全くわからないで常に想像しながら見ざるを得ないんですよ。
鈴木 最後に石像って「猿の惑星」のエンディングみたいだな。
荒木 ああ!そんな感じですね。だから、人によってはモヤモヤしちゃうかもしれないけどそこがとっても謎と曖昧さに溢れてていいんですよ。
鈴木 そのものを愛せばいいんですね。
荒木 そういうこと。身を水の中に任せればいいんです。
鈴木 いやー、泳ぎたいなあ、ちょっと。
荒木 もちろん、子どもが見ても面白いんですけど、この想像力を働かせなきゃいけないってのは、大人の見方で醍醐味ですよね。その辺は十分満たしてくれる作品だと思いますよ。監督はラトビアのギンツ・ジルバロディスと言う人ですけど、この人、ひとりでデビュー作を作ったらしいんですよ。文字通りひとりで何年もかけて。今回は3年半程かけて、50人程度のスタッフとともに完成させた長編第2作なんですね。
鈴木 長編て何分くらいのものなんですか?
荒木 90分弱、85分か。これでいろんな賞を取っています。この作品で使ったのが誰でも使えるフリー―のアニメソフトウェアなんだそうです。お金かかってないんです。それこそ何百倍もの予算をかけて作られたアメリカなどの大国アニメーションを押さえてアカデミー賞を取ったということは、小さな国の小さな作品だけど本当印象的です。
鈴木 シンプルさが胸に届くんですよ、それは。
荒木 だけど、こんなフリーソフトで作れるのかって思うほどカメラ自体が流れるように、本当に流れるように冒険を撮っていますけど。
鈴木 FLOWじゃないですか、まさしく。
荒木 ちょっと古い感じはしますけどそれが非常にいい感じになってますね。これも、ダイちゃんも時間があったら見ていただければいいと思います。さすがアカデミー賞獲っただけじゃないなという、そんな感じの作品です。
鈴木 1日お休みあって午前中「教皇選挙」見て、午後「Flow」見たら訳わかんなくなりそうですね。
荒木 わけわかんなくなりますね(笑)。けど、記憶には残るし非常に感情に訴えるいい作品です、両方とも。「Flow」は子どもさん連れてってもいいしね。ということで、、ご紹介しましたので時間があったら是非見てください。
鈴木 ありがとうございます。

■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年生まれ。長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。
■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。