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映 画

アラキンのムービー・ワンダーランド/「第95回アカデミー賞」「オットーという男」のとっておき情報
(2023年3月17日10:00)
映画評論家・荒木久文氏が「第95回アカデミー賞」と「オットーという男」のとっておき情報を紹介した。
トークの内容はFM Fuji「Bumpy」(月曜午後3時、3月13日放送)の映画コーナー「アラキンのムービー・ワンダーランド」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。
鈴木 よろしくお願いいたします。
荒木 今日は何と言っても第95回アカデミー賞の発表でした。 結果をご存じの方もいらっしゃるかもしれませんけど、2時間ほど前に全部決定したばかりなので、今日はこの話題を中心にお送りしていきたいと思います。
鈴木 お願いします!
荒木 ロス・アンゼルスのドルビーシアターで行われたんですけど、今年の特徴としてはグローバル化が進んだと前からお話しています。特にアジア系の進出ね。作品賞ばかりでなく、俳優賞も受賞しましたけど。ダイちゃんは、結果ご存じですか?
鈴木 もう!エブエブじゃないですか~!やっぱり!
荒木 あはははは。そうだよね。ダイちゃんが、もうほんとに素晴らしいという…。
鈴木 面白過ぎるもん!この映画。
荒木 普段だったら、多分アカデミー賞は取らないっていうか、ノミネートもされないだろうという作品でしょう。強かったです。7冠ですよ!7冠!
鈴木 俺、ここまで取るとは思わなかった。いくら何でも。
荒木 ほんとですよね。ここまで取るとは思わなかった~。つまんない圧勝で、どっかのWBCの第一ラウンドみたいですよね。
何から行きましょうか。ダイちゃんも予想していたと思うので、ひとつづつ賞を取り上げて行きましょうね。
鈴木 お願いします。
荒木 まず何といっても作品賞。これは「トップガン マーヴェリック」、「イニシェリン島の精霊」とか出ていましたけど、間違いなく勢いが「エブエブ」こと「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」だろうと言われてたんで、この辺は疑問もないという感じでしたよね。

鈴木 ある意味、これは妥当ですか?
荒木 妥当ですね。いろんな情報を集めると、本番前に差されるということもあったんですけど、今回は始めからもう大逃げっていう感じでしょうね。続いては監督賞。これもスティーヴン・スピルバーグが対抗で、ダニエルズ。ま、ダニエル・クワン&ダニエル・シャイナートが本命と言われてましたけど、圧倒的にダニエルズでしたね。
そして今回のハイライト、主演女優賞。アジア人初!ま、男女通じてですけどね。
鈴木 うわっ! そうなんだー。
荒木 主演賞は、ミッシェル・ヨーということで。波乱があるとしたら、僕はここだと思ったんですよね。ケイト・ブランシェッドの「TAR/ター」の評価が凄い高かったんですね。演技で言えばですね、まだ映画公開されてないんですが、ドイツ語を喋ったり、ピアノをやったりですね、何よりもクラシックの指揮と言うものに挑戦して、凄い演技、素晴らしいなと思ったんですけど。そんなもの関係なく、アジア人初。マレーシア出身なんですけどね。ミッシェル・ヨー! 素晴らしい勝利でした。ダイちゃんも予想してました?
鈴木 いやー、ここまでは…。作品賞は取ったら面白いし、取るかもしれないなぐらいで、ここまでは予想してなかったな。
荒木 そうですよね。で、主演男優賞はブレンダン・フレイザーです。「ザ・ホエール」。これも素晴らしい映画でした。これはもう本命ということでね。コリン・ファレルがどうなるか、オースティン・バトラーが来るとかっていう興味ありましたけど、これも順当に収まった感じですよね。
鈴木 収まった感じですか。
荒木 ま、私はブレンダン・フレイザーだと思っていましたけどね。もし、オースティン・バトラーが取るんであれば…、実際の人物を演じてる人は強いんですよね、意外に。だから将来性がある若い俳優だって、読むんだったら、「エルヴィス」のオースティン・バトラーかなと思いましたけどね。
鈴木 なるほど。
荒木 で、助演男優賞。これはもうがちがちの本命ですよね。「エブエブ」のキー・ホイ・クワン。ベトナム系の中国人ですけどね。子役でデビューして、長い間業界にはいたんですけども、映画には出演しなくて裏方をやってた人です。ここへ来て、そういう意味では地味な努力が花開いたという感じです。
鈴木 やっぱり夢は捨てないほうがいいよね。
荒木 そういう事ですよね。で、助演女優賞。ここが混戦で全くわかんな
かったですけどね。アンジェラ・バセッド、ケリー・コンドン、それから今回取ったジ
ェイミー・リー・カーティス。他にも「エブエブ」に出ていたステファニー・スー、
ホン・チヤウとかね。ほんとにそういう意味では、白人、東洋人、黒人と、人種的には
バラバラでしたが、ジェイミー・リー・カーティスという事で。ここは皆、外した人が
多いんじゃないんですかね。
鈴木 やっぱりそうですか、ここは。
荒木 そうですね。脚本賞も、ダニエルズで「エブエブ」が取ってしまいまし
た。 何かね、取ってしまいましたって感じですね。これだけ強いと何か寂しい気もします。
鈴木 あはははは。確かにね。
荒木 ちょっとバラエティーがあってもいいんじゃないかって気になってくる。
不思議ですよね。 それから、サラ・ポーリーが脚色賞を取りました、「ウーマン・トーキ
ング 私たちの選択」。アニメ賞は、これは予想通りでした。ここには日本の作品が
入っていなかったったのがちょっと寂しいんですけども、「ギレルモ・デル・トロの
ピノッキオ」。
国際長編映画賞は、ドイツの「西部戦線異状なし」。これも予想通りですね。「西部戦線異状なし」は、地味と言っちゃいけないんですが、他にも美術賞だとか、作曲賞。作曲賞は特に、僕はバビロンとかね、「フェイブルマンズ」のJ・ウィリアムズが取るんじゃないかなと思っていたんですけど、これも「西部戦線異状なし」が取ってしまいましたね。
国際長編でしょう、それに撮影賞も取っているんですよね。
鈴木 取ってんね、結構。
荒木 地味に。あとドキュメンタリー賞、「ナワリヌイ」でしたし。衣装賞は、「ブラックパンサー」が取りましたし、メイクはそれこそ「ザ・ホエール」と言う事で。ダイちゃんはどうでした?大方の予想と。
鈴木 僕は「エブエブ」を観させていただいて、ホントに面白かったんですよ作品として。これがアカデミー賞にノミネートされてるって知って、取ったら面白いし、でも取ることないな。こういうのってと思っていたんだけど、いざ、これだけ取っちゃうとアカデミー賞も変わってきたのかな?って気がしないでもないんだよねー。
荒木 そうですよね、皆さんそう思いますよね。と言う事で、アカデミー賞終わってみたら何か圧勝でですね、ちょっと波乱も無く…という感じでしたけどね。…ということで、又来年楽しみにしたいと思います。アカデミー賞はこのくらいにして、も一本紹介できる時間がありそうですね。
鈴木 はい。お願いします。

荒木 現在公開中の作品から「オットーという男」。この主演の俳優さんはアカデミー賞…、確か5回ノミネートされてますね。2回主演男優賞とっています。
もうなんか今となると、アカデミー賞卒業的な、紅白卒業と同じようななイメージでしょうか。誰だと思いますか? トム・ハンクスですね。
この映画は、実はリメイクなんです。2015年に公開された「幸せなひとりぼっち」というスウェーデン映画がオリジナルで、この作品にトム・ハンクス自身が惚れ込んでですね、ハリウッドリメイクして、プロデューサーもやってますね。観せていただいて、いやいや、さすがというのか、非常にいい出来上がりですね。
鈴木 非常にいいですか。
荒木 そうですね。ストーリーは、定年退職を迎えるぐらいの60代中盤のおじさんなんですけど、オットーさん。この人、曲がったことが許せないというか、しゃくし定規な人なんですね。近所を毎日パトロールしてはゴミ出しなんかのルールを守らない人に説教を垂れたりですね、仏頂面で不機嫌で、挙句は野良猫にまで八つ当たりをする。そんな近所の人にはとても面倒臭くて近寄り難い存在でした。たまにそんな人いるよね?
鈴木 いるよ!いるいる!
荒木 そんなオットーさんは、人知れず孤独を抱えていたんですね。実は最愛の妻に先立たれ、仕事も失った彼は、自分の人生を自分で終わらせようとしていたんです。ところが、ある日、向かいの家に越してきた陽気な一家、メキシコ移民の一家なんですけど、そのにぎやかさに邪魔されて、いろんな手段で自殺しようとしてもなかなか上手くいかないんです。それどころか、そんな迷惑な一家の出現が、オットーの人生を変えてくことになる。というお話です。 一言で言うと孤独な老人の再生の物語なのですが、やはり何というか、トムハンクスが上手すぎるんですね。
鈴木 やっぱり凄い役者なんですか、トムハンクスは!
荒木 前半は、嫌われ者で心に深い孤独を抱えている偏屈で気難しい老人なんですが、オットーが抱えている無表情な表情が、終盤になると、メキシコ一家との交流で徐々に表情が溶けて柔らかくなってゆくんですね。その演技が素晴らしいんですよね。
多分、順番に撮っていないと思うんですけど、その通りに表情を変えるんです。この人は実に、いい人とか善人が似合う人ですよね。
鈴木 そうですよね。
荒木 「フォレストガンプ」なんかでは、底抜けの善人を演じたり。一回だけ悪い役をやったことがあるんですよ。ダイちゃんご存じですか?
鈴木 「エルビス」のトム・パーカー大佐…。
荒木 そうそうそう。純粋な悪いマネージャーとして出演しましたけど、何かやっぱり人がいいんじゃないかという部分もありましたよね。この「オットーという男」、彼の演技を見るための映画と言ってもいいと思います。
オットーの若い時の回想シーンは実の息子さんがやってるんです。
鈴木 えっ!?
荒木 そうなんですよ。3人男の子がいてですね、2人俳優で、今回演じたのは俳優じゃない1人。トルーマン・ハンクスさんていう人らしいんですけど、裏方さんやってたらしいです。この人もなかなかいいですよ。
鈴木 そうなんだー。
荒木 はい。久々に安心できる心温まるパターンの作品なんで、穏やかな作品なんで、「オットーという男」、是非ご覧になって頂きたいと思います。という事で、今日はアカデミー賞と、アカデミー賞の常連だったトム・ハンクスの作品を紹介しましたけど、なんかもっとねー、こんな番狂わせがあったんですよっていうのを、自分自身では期待してたんですけど、そうじゃなかったなあ。
鈴木 ほぼないですか?番狂わせ。
荒木 ほぼないですよね。なんかもうちょっと興奮出来たのかな…と思いますけど。
鈴木 でも、「エブエブ」が7冠とったことが、ある意味、最も興奮する事だなあ…。
荒木 そこですよねー。7冠て凄いですよね。俳優賞、ほぼ独占ですからね。
鈴木 観といてよかったなあ、あれ。めちゃめちゃ面白い。絶対もう一回観よう。
荒木 ということで、今日はバッチバッチのガッチガチの生でおおくりしました(笑)。
鈴木 荒木さん、リアルタイムありがとうございます。

■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。
■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。