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映 画

「サブスタンス」「事実無根」「金子差入店」のとっておき情報
(2025年5月18日9:00)
映画評論家・荒木久文氏が、「サブスタンス」「事実無根」「金子差入店」のとっておき情報を紹介した。トークの内容はFM Fuji「Bumpy」(月曜午後3時、5月12日放送)の映画コーナー「アラキンのムービー・ワンダーランド」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。
鈴木 よろしくお願いします。
荒木 昨日は母の日でした。ダイちゃんのお母さんはお元気ですか?
鈴木 お元気でございます。ありがとうございます。
荒木 お祝いしましたか?
鈴木 今日、番組のオープニングでも触れたんですけど、印傳屋のメガネケースをプレゼントしました。
荒木 いいですねー。いい息子だね。母親には幾つになっても元気でいて欲しいもんですよね。若い時のお母さんの写真なんか見たことありますか?
鈴木 あるある!いっぱいあるんですよ。
荒木 なんか不思議な感じしますよね。
鈴木 そう。今の我々が話す女性よりも年下ってことがバックトウザフューチャーですよ。
荒木 誰にでも若い時があってだんだん年老いて行くんだな、と実感できるんですけどね。・・・そんなことも考えさせるような作品からご紹介です。
今年のアカデミー賞関連ではいちばん最後の公開になる「サブスタンス」という作品です。

鈴木 ニュー・オーダーのアルバム名みたいなタイトルだね。
荒木 5月16日から公開です。物質とか成分とかそんな意味だよね。
主演はデミ・ムーアです。
鈴木 デミ・ムーア、昔は大好きでしたね。
荒木 彼女は62歳になりますが、今年初めてアカデミー主演女優賞にノミネートされたんですけど、惜しくも主演女優賞は取れなかったんですが、これは文字通りの体当たり演技で話題になっています。デミ・ムーアが演じる元人気女優、エリザベスは50歳の誕生日を迎えます。かつてはハリウッドの大女優だったんですけど、今は女優としての仕事は少なくてテレビでエクササイズの番組をやっているんです。昔のブートキャンプみたいな、コンダクターみたいなやつですよ。
鈴木 なるほどありがちですね、ありそうですね。
荒木 ところが番組プロデューサーから、「メインを君から若い女性にチェンジしたいので降りてちょうだい」と言われます。このプロデューサーの役名が「ハーヴェイ」っていうんですけど、明らかにハーヴェイ・ワインスタインですよね(笑)。
鈴木 あの男ですね、やっぱり。
荒木 有名なセクハラ、レイプの。で、エリザベスは容姿の衰えで仕事がどんどん減っていくことを気に病んでいますが、そんな時、ある看護師から「サブスタンス」という若返り医療を教えてもらうんです。そして若さと美しさが復活し完璧な自分を取り戻せるという噂の「サブスタンス医療」に手を出すことになるんですね。
鈴木 手を出すわけですか!エリザベス!
荒木 そう。そしてこの薬品を注射するとなんと!エリザベスの背中が破けて、「スー」という若い自分が、蝉の殻を破るように現れるんですよ。
鈴木 ホラーじゃないですか!
荒木 スーは若さと美貌に加えてこれまでのエリザベスの経験を持っていますので、いわばエリザベスのリニューアルアップグレードみたいなものですよ。
鈴木 無敵ですね!
荒木 無敵ですよ! たちまち売れちゃってスターダムを駆け上がって行くことになるんです。しかしサブスタンスの使用法には、古いエリザベスと新しいスーが「1週間ごとに入れ替わらなければならない」という絶対的なルールがあるんですよ。
鈴木 なんだ、それ!
荒木 ところが若いほうのスーは次第にルールを破りたがるようになるんです。当たり前ですけどね。
鈴木 自我を持って行くわけですね。
荒木 はい。彼女はこの「サブスタンス」を続けた結果、大変な事態になって恐ろしいことが起こるという…、そういうお話です。
鈴木 これ、エリザベス・スーさんって、同じにしちゃえばいいのにね。
荒木 ・・・ああ(笑)、もうご存じの人が多いとは思いますが、デミ・ムーアは、『ゴースト/ニューヨークの幻』でヒットして人気を得、ブルース・ウィリスと結婚してからしばらくスクリーンから遠ざかっていたんですが、今回久々のカムバックです。さっきダイちゃんがホラーじゃないかって言ったように超ホラーです。
鈴木 ホラーなの!これ?
荒木 ホラーコメディかな?(笑)見る人によって違うと思いますが、コメディだと思っている人もいるかもしれません。CGを使ってない、いわゆる特殊メイクでやってます。何時間もかけてね。特殊メイクによる怪獣映画と言っていいくらの凄まじさです。
その上、ここまでやるのってくらい全裸、丸出しですよ。デミ・ムーア、恐ろしいですけど、完全に人間じゃなくなってるんですけどホラー映画ですよね。無茶苦茶怖い映画です!(笑)
鈴木 あはははは。
荒木 グッチャングッチャンな映画なんですけど、見方によっちゃ笑っちゃうね。笑っている人、結構いました。
鈴木 ホラー映画って極めると笑いだもん!
荒木 そうなんです!その通りなんです。『サブスタンス』、5月16日公開の作品でした。ホラーコメディです。
ところでダイちゃん!ありもしない、つまり事実無根の噂を流されて迷惑をこうむったってことって、ありそうですね。ありますか?
鈴木 ありますし、事実無根の噂もそうだし、事実無根であの人と付き合いだしたとか、あの人が好きだとか、いろんな噂が…。
荒木 なるほどねー。世間というのはダイちゃんの潔癖な、立派な人格にも関わらず、根も葉もない噂を信じちゃいますもんね(笑)。
鈴木 あはははは。何とも言い難いですよ、今、私は。
荒木 何の罪もないのに、大きな不利益を被ることは現実ではありますよね。
鈴木 あります!
荒木 次にご紹する作品は、悪意のある噂を立てられて人生を狂わされてしまった人々を描いてるんですけど。タイトルは、ずばり漢字4文字、「事実無根」。
先週から公開されています。
ストーリーです。京都・下京区に実在する喫茶店で「そのうちcafe」というところが舞台です。マスターは星さんと言います。中年というかそろそろ老年かな。
ある日、沙耶と名乗る18歳くらいの若い女性がアルバイトさせてくださいと店に来て、働きはじめます。この沙耶ちゃん、一生懸命に働いて好印象なんですけど、そんな彼女を近くの公園から盗み見ている男がいたんです。

鈴木 うわっ!怖っ!
荒木 怪しく思ったマスターの星さんが問いただすと、その男は元大学教授で、セクハラという事実無根の冤罪で大学を追われ、妻にも逃げられてホームレスになってしまっているということが分かるんです。しかも彼はアルバイトの沙耶ちゃんの元義理の父、つまり沙耶ちゃんは再婚した妻の連れ子だそうなんです。それで心配で様子をそっと見守っていたというんですね。
マスターの星さんにも、昔「事実無根」で苦しんだ過去があったんですね。
結婚していた妻から一方的にDVを受けていたと証言され、可愛い盛りの娘と生き別れになってしまった過去だったんですね。だから同情した星マスターは、沙耶とホームレスの男を再会させてあげようとするんです。
鈴木 再会させようとするわけなんですか?
荒木 そうなんですよ。ところがこのことが思いがけない事実を引き出すことになって、3人はそれぞれの過去や事実と再び向きあうことになるというお話です。
近藤芳正さん 村田雄浩さん テレビでよく見る脇役の方なんですけど、沙耶さん役は新人さんの東茉凜ちゃんです。
近藤さんも村田さんも脇役一筋の人たちですけど、上手いですよね、やっぱり。巧みでハイレベルなお芝居。
鈴木 技術とかスキルあるんだよねー、脇役の方って。
荒木 本当、鍛えられているからね。京都を拠点に活動する柳裕章監督がメガホンを取って、世界各地の映画祭で数々の賞を受賞しているんですね。脚本がとても巧みで、構成がとてもうまいですね。
鈴木 トリッキーなんですか?
荒木 トリッキーです。一人の人間にいろいろな人が、それぞれに知らずに絡んでゆくというパターンで謎が解かれるにつれて、登場人物の関係性が劇的に変わっていくんですよ。ちょっとネタバレがあるんであまり言えないんですけどね(笑)。
私も始めは冤罪の話しかと思ったんですけど、どっちかというと関西喜劇風というか人情話風です。最後はほのぼの映画になっています。ごめんね、謎ばっかし残して終わるようで(笑)。
鈴木 全然、大丈夫。
荒木 そうですよね(笑)。見ていただきたいと思います(笑)。
「事実無根」という5月10日から上映中の作品でした。
最後は「差し入れ」の話なんですけど。
鈴木 差し入れ?
荒木 そう。ダイちゃんは仕事柄「差し入れ」って沢山あるでしょう?
鈴木 いただくんですよね。
荒木 お供えみたいにいただくよね。
鈴木 その通りなんですよ。
荒木 持って行くこともあるでしょう。
鈴木 ありますね!
荒木 この差し入れというのは我々の感覚だと激励だとか、ダイちゃん頑張ってとか。
鈴木 そうでしょうね。
荒木 慰労の為に飲食物などを届けることですよね。
でもね、この差し入れとはもともと根源的な意味としては 刑務所とか拘置所とか、警察の留置施設に収容されている者に、外部から日用品などを届けることを言います。
鈴木 なるほど!えー!?

荒木 本来的にはこれなんですよね。
次の作品はその刑務所などにモノを届けるという、基本的な「差し入れ」をテーマにした、「金子差入店」という5月16日公開の作品です。元関ジャニの丸山隆平君、今「SUPRE EIGHT」っていうのかな。彼が主演ですね。
丸山君扮する金子真司さんは刑務所の近くで、いわゆる「差入屋」を一家で営んでいます。ある日、小学生の息子の友達の女の子が殺害されると事件が発生します。
皆がショックを受ける中、なんとその犯人の母親が彼の店に「息子に差し入れをしたい」と訪れます。仕事ですのでその対応をしながら、犯人と刑務所で向き合うわけです。
彼の気持ちの中には、憤懣と怒りが渦巻いていくんですね。
一方、そんなある日、彼は一人の女子高生と出会います。彼女は毎日のように拘置所を訪れ、なぜなのか、自分の母親を殺した犯人の男との面会を求めていたんです。こういう謎の物語です。このふたつの物語の中で金子さん自身の過去の問題が出てくるんです。
鈴木 何でも過去だね。
荒木 みんな過去の問題が出てくるの・・というストーリーなんですけど、主人公丸山君のほかには真木よう子さん、寺尾聰さん、北村匠海くんが出てます。
中でも北村くんは、存在感が凄まじくて不気味でとても気持ちが悪く引き込まれます。
はじめ出てきたときは、しばらく誰だかわかんないくらいでした!彼、上手いですよね、最近いろんなところでね。
で、差し入れ屋って知らないでしょ?ダイちゃん。
鈴木 知らないですよ!っていうか、本当にそんな商売あるの?
荒木 うん、友人に犯罪者でもいれば別ですけど。全国各地の主な拘置所だとか刑務所だとか少年院だとかの近くで営業している個人商店で、ちょっとダサい雑貨屋みたいな感じかな?
鈴木 そんなのあるんだー。
荒木 あるんですよ。生ものを除く食料品だとか、文具、雑誌だとか身の回り品で、差し入れ目的でないと購入できない品物もあるんです。
鈴木 差入れって、他人と言えども仕事と言えども犯人と会うじゃないですか、犯人のいろんな秘密を聞いちゃうこともありますよね。
荒木 ありますよね。今 仰ったように、面会人の代行で差入れを持って面会するんですよ。刑務所の差入れって、ルールが凄いめんどくさいのがあって、よく知ってないと出来ないんです。だから頼まれて時にはさまざまな事情から面会に行くことができない人たちの代行も行う仕事です。
鈴木 昭和だったら、エッチな本差入れしてくれよって人いたんでしょうね。
荒木 はい、いたんでしょうね。でも、それはみんなチェックされるみたいよ。
鈴木 没収でしょうねぇ!
荒木 独特の世界ですよ。我々の知らない世界ね。犯罪者やその間係者と隣接している状況で、私たちが普段触れることのない世界で起こっているお話です。
縁の無い人には全くわからないお話なんですけど、もしかしたら私たちの周りにも被害者になったり、間違って加害者になることもあるんで。こういう世界もあるんだという。
鈴木 なんか考えこんじゃうなぁ、見てると。
荒木 そうですよね。ちょっと重い作品なんですけど、非常に示唆に富んだ人間の裏表とか光と影を描いた作品です。5月16日公開です。「金子差入店」と言う作品でした。
鈴木 わかりました、なんか微妙な気持ちになってる。
荒木 そうですか。人間、いろんな知らない世界もあるんですよ。
鈴木 ありがとうございました。

■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年生まれ。長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。
■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。