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映 画

「俺ではない炎上」「ワン・バトル・アフター・アナザー」のとっておき情報
(2025年10月13日9:45)
映画評論家・荒木久文氏が「俺ではない炎上」「ワン・バトル・アフター・アナザー」のとっておき情報を紹介した。トークの内容はFM Fuji「Bumpy」(月曜午後3時、10月6日放送)の映画コーナー「アラキンのムービー・ワンダーランド」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。
鈴木 よろしくお願いします。10月に入りましたね。秋ですね。
荒木 秋というと、映画界は映画賞とか映画祭のシーズンですよね。
今年もいくつか紹介していきますので、映画ファンの方はお楽しみに。
まずは「報知映画賞」です。50回目の記念回ですね。この賞は映画賞の先陣を切って開催される日本でも最も歴史がある有数の映画賞です。この報知映画賞はまず一般投票があって、それをベースに報知映画賞事務局の審査を加え個人部門は10人、作品部門は15作品、各部門の候補をノミネートします。
鈴木 まず、最初 一般の方ですもんね。
荒木 そう、それから最後に11月に選考委員会で決定ということです。
だから、今おっしゃったように一般投票が10月1日から始まってるんですよ。
作品賞とか主演男優賞とか9部門あるので、そこに投票してもらうわけなんです。
一般リスナー、読者の投票方法はホームページにまず行ってください。
もうそこで簡単に登録して投票できますので。
鈴木 報知映画賞で検索すればいい感じですか。
荒木 そうです。簡単にできるので、今年は読者賞みたいのもあるらしいし、50回目なので、景品も豪華らしいですよ。投票していただくと高級ホテルペア宿泊券なんかが50回記念なので出るようですけど。10月31日までなのでとにかくページに行ってみてください。報知映画賞のお知らせでした。
まず1本目。『俺ではない炎上』っていう公開中の作品です。作家の浅倉秋成さんの小説を映画化したものなんですけど、まずストーリーだけ言っちゃいますね。
サラリーマンの山縣さん。あの阿部寛さんが演じています。彼はある日突然、彼のものと思われるSNSのアカウントから女子大生の他殺死体の画像が拡散されるんです。
で、彼が殺人犯としてネット上で流されてしまいました。全く身に覚えのない事態に無実を訴えるも、瞬く間に情報を拡散してネット炎上状態。
すぐに山縣さんの個人情報がさらされて、日本中から追いかけられて逃げ回ることになっちゃうんですね。彼の他には謎を追う女子大生やインフルエンサーだとか、自分の部下とか妻だとか様々な人物の思惑が絡み合って事態がさらに混迷を深めていきます。
山縣は必死に逃げまくりながら無実を証明して自分を陥れた真犯人を見つけようと頑張りますが…というお話です。

鈴木 頑張りますが…って話ね。
荒木 はい。私も原作の浅倉さんの小説も読んだんですけど、トリッキーですね。彼の小説はみんなそうなんですけど、どんでん返しの繰り返しなんですよ。だから飽きません。この作品、見る人をミスリード、つまり、なんていうの、誤解されやすい方に使うんですよ。そんな風に作ってあるんで、事前情報あんまり入れずに見に行ってくるといいと思います。
鈴木 さらな状態で行った方がいいってことね、何となく。
荒木 そうですね。大きなテーマになっているのがSNS。ダイちゃんは「ダイのSNS大炎上」ということはありますか。
鈴木 前ね、インスタやってるときに、アメリカの人らしいんだけど、英語でやり取りしたんだけどインスタのアメリカの人と。
荒木 はい。
鈴木 乗っ取られたんです、僕。
荒木 えっ!?そんなこともあるの?
鈴木 はい、 乗っ取られたことがあって、アメリカの方から俺んとこすごいメールがたくさん飛んできて、英語で。ああだ、こうだといちゃもんつけられて、もう二度と解禁しないからって。いや俺じゃないからそれとか、延々やりとり6、7往復してやっと戻ったら、さすがに私は嫌気がさして止めちゃったっていう流れがあるんすよね。
荒木 なるほどね。
鈴木 そういう炎上もあるし。
荒木 そうだね、それで、やっぱりこういう商売していると、いろいろあるじゃないですか。番組のSNSもあるし。
鈴木 ある、ある。番組で喋ったことが番組のSNS上のX上で、「ダイ、それはないだろう」みたいなのは、ありますよね、当然。
荒木 そうですか。でも、めちゃくちゃなダイ炎上はあんまりない。
鈴木 あんまり僕は気にしないタイプなんで(笑)。
荒木 なるほどね。
鈴木 燃え上がらないんですよ、なんか。スルーしてしまい。
荒木 ただね、もう関係ない人も巻き込まれる可能性あるからね。やってない人ですら巻き込まれますからね。
鈴木 俺は関係ないじゃじゃ、もう通用しないですからね、今ね。
荒木 そうなんですよ。本当に、私達、昭和世代でも巻き込まれるということがありますので、私も比較的早く始めたんですが、これはやばいと気がついてすぐ止めました。
鈴木 荒木さんも俺も、手を出すの早いのよ。でもすぐ止めちゃうパターンじゃん。途中で。何かやばいなと思って。
荒木 本当に気をつけましょうね。そういう意味じゃSNSはこの映画のコピーにもありますよ。「炎上するのは、あなたの番かもしれません。明日はわが身のノンストップ炎上」って書いてありますから。
鈴木 うわー。
荒木 気をつけましょうね、大丈夫と思わないで。
鈴木 だって、あの矢沢永吉さん、永ちゃんの新譜の1曲目もね、「嘘が本当になるゲーム」ってそういう炎上の話で歌ってますから。
荒木 もうひとつ、この映画で感じたことなんですが、それは、思い込み。
特に自分が他人にどう見られてるかっていう思い込み。この主人公の山縣さんは逃げ回ってる中で、部下のひとりの住まいを訪ねて助けを求めるんです。ところが、日頃気持ちが通じあってると思っていた部下から、思わぬこと言われるんですよ。
「あなたは恨みを買いやすい人で、みんなに嫌われてる」「恨まれてる」と。「人の気持ちを考えないで黒い部分があって、自分のことしか考えてない。」って。自分のことをわかってないから。奥さんにも強引なところがあって、察しが悪いとかね。他人の気持ちを理解できないと。もうこれ以上言わないような言われ方するんです。(笑)。
鈴木 ボコボコじゃないですか、山縣さん。
荒木 で、アハハ…と初め私も笑ったんですが、待てよ、これ、もしかしたら俺かなと思いました。私がいないときに、FMFUJIのスタジオで、みんなが私のことをこんなふうに言ってるんじゃないかと。もう一気に暗くなってしまいました。
鈴木 被害妄想、被害妄想。ははは…。
荒木 人間が持っているセルフイメージ、自分はこう見られているんだろうな
という考え方がね、本当は他人が感じることと一致しないことが多いんですよね。
例えば私はね、自分のことを、よく気がついて、おおらかで機嫌がいつも良くて、竹を割ったような性格だと思っていたんですが、かみさんにある時、言われました。「あんたは下品で、金に細かくて、竹を折ったような性格だ」だと。大ショックでした。
鈴木 あはははは。
荒木 夫婦は容赦ないからね。
鈴木 いやでも両方あってんですよ、それ多分。奥様が言われてるのもそうだしパブリックイメージも、両方自分なんですよ、多分。
荒木 ダイちゃんだって思うでしょ。自分のイメージをどう見られてるのかっていうことを。
鈴木 俺ほど、ナイスガイでこんな素敵な人はいないだろうなって伝わってるだろうなと思いながら・・・違う、違うって言われることも多分ですよ、これ。
荒木 だからセルフイメージとパブリックイメージと違うことが多いんで、みんな、お互いの持っている感覚と違う認識で生きてるんだと。
鈴木 なんか、いつも炎上しちゃう方が楽かもしれないね、これちょっと。
荒木 そうだね・・・。あ、ごめんなさい、また外れてとんでもないとこに行ってしまいましたけども、ご紹介したのは『俺ではない炎上』公開中です。
見に行ってください。いろんな意味で面白い。
鈴木 わかりました。
荒木 最後はですね、『ワン・バトル・アフター・アナザー』という10月3日公開の今年の秋の話題の作品です。

鈴木 公開したばっかりですもんね。
荒木 監督、有名な人なんですよ。ポール・トーマス・アンダーソン。
PTAっていう人ね。現代の映画界を代表する監督と言われるすごい人で、いろんな国際的な映画賞を取って人です。特徴的なロングテイクの技法とか70ミリフィルムの仕様なんかね。それから俳優の特性を最大限に引き出す人っていう評価もあるんですね。
鈴木 素晴らしい監督じゃないですか、それ。
荒木 素晴らしい監督です。ベルリン、カンヌ、ベネチア…いっぱい取ってるし。そのPTA、ポール・トーマス・アンダーソンの最新作が、これからご紹介するレオナルドディカプリオを主演に迎えた『ワン・バトル・アフター・アナザー』と言います。
日本語に訳すと「戦いに次ぐ戦い」みたいな、そんな意味…。
ストーリーは、かつては世を騒がせた革命家だったボブ。もちろんデュカプリオです。
かつて妻とともに、ロックジョーという軍人が警備する移民施設を襲撃するなど活動に明け暮れたんですね。ところが、妻は突然、娘と彼を残して姿を消してしまうんです。
それから十数年後、彼は娘が成長して。ボブは革命家の面影もないような薬漬け酒漬けの駄目中年になってしまうんです。そんなある日、出世した因縁のロックジョーがボブの娘を捕らえようと、隠れて暮らしていた街に兵士を引き連れて攻め込んできます。
学校にいた娘は逃げ出すんですけど、かつての革命家のパパのボブは、らりっていて戦力になりません。それを救ってくれたのが娘の空手の先生です。果たしてロックジョーは何を狙っているのか、ボブは娘を取り戻せるのかというお話ですが…。
鈴木 おもしろみ、てんこ盛りじゃないですか。
荒木 ストーリーというか、脚本がとっても秀逸です。素晴らしい。
それからボブをレオナルドディカプリオでしょ。それからロックジョーをショーン・ペンなんですよ。
鈴木 いいですね。
荒木 ショーン・ペンが変態の軍人さんをやってるんですけど、凄くいいですね。
鈴木 なんか合いそうだ。フィットしてる。
荒木 それからね、ベニチオ・デル・トロも空手の「センセイ」で出てきますんで。大変長い映画ですけど、162分あるんですけど全然飽きません。
鈴木 2時間40分、長いな。
荒木 もういろんなものを詰め込んでるんです。そして、今までフィルム撮影にこだわった人なんですけど、ポール・トーマス・アンダーソンは今回、大予算で全編IMAX。ビスタビジョンで作品を撮ったんですよ。だから、彼の持ち味を残しながらも商業主義に。元々この人、芸術性と商業主義両立している人で、わりかしフィットしてるんですよ。
鈴木 バランス感覚、抜群じゃないですか。
荒木 そういうことです。うん。だからね「ブギーナイツ」とか「マグノリア」っていうのが代表作にあるんですが、そんな中にも内容的にはちょっと今日的な問題、例えば白人至上主義だとかね。ファシズムと移民問題とか。そういうのもちゃんと盛り込まれてて、その上で、ユーモアとわいせつなセリフがいっぱいあるんですけど。
鈴木 面白いね。
荒木 面白いです。間違いなく、アンダーソンのキャリア最高の作品と言えると思います。面白い映画です。本当、162分が全然感じられません、長さが。
『ワン・バトル・アフター・アナザー』という現在公開中の作品をご紹介しました。
鈴木 荒木さん、今回はね間違いなく、これは炎上しない回ですよ。
ちゃんとしてましたよ、今回は。
荒木 そうですか、いつも炎上してたんだ?
鈴木 炎上してないけど、「俺ではない炎上」を聞いた後だと、炎上しないようにしないようにっていう、すごくストップ心がかかってたもん。
荒木 たまには、ちょっと炎上させてやろうかな。
鈴木 …ありがとうございました。

■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年生まれ。長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。
■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。