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映 画

「愚か者の身分」「火の華」「アニタ 反逆の女神」のとっておき情報
(2025年11月3日18:00)
映画評論家・荒木久文氏が「愚か者の身分」「火の華」「アニタ 反逆の女神」のとっておき情報を紹介した。トークの内容はFM Fuji「Bumpy」(月曜午後3時、10月27日放送)の映画コーナー「アラキンのムービー・ワンダーランド」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。
鈴木 よろしくお願いします。
荒木 10月も最終週で今週金曜日はハロウィン。さっきやってましたね。
鈴木 ハロウィンソングをお送りしましたけどね。
荒木 今年、映画的にはハロウィンぽい作品があんまりないんですよね。
鈴木 毎年 結構あったのにね、いろいろ。
荒木 そうなんですよ。毎年最新映画をテーマにした仮装なんて人もいましたけど、強いて言うと『死霊館 最後の儀式』っていう怖いやつ。
あと31日に完成披露試写会があるんですが『プレデター バッド・ランド』がちょっとハロウィンっぽいって言えばハロウィンぽいけど。
鈴木 無理やり寄せてるね。それ、ちょっとね。
荒木 そうですね。プレゼンターの仮装は難しい、カニみたいですからね(笑)。…ということで今日ご紹介の映画、2本。共通点があります。ヤバいよ、ヤバいよ、ヤバいよ、ですね。
鈴木 ヤバいよ、ヤバいよ、ヤバいよ、3回?
荒木 そうですね。ヤバいって意味、ほらダイちゃんもご存知の通りふたつありますよね、表現的には。
鈴木 いい意味と悪い意味ですか?
荒木 そうそうそう。まずいよ、まずいよという、普通のヤバいよと。
もうひとつ現代的なポジティブな表現でかっこいいという、やばくね~?とかいう若者言葉で良いよという褒め言葉。
鈴木 ご機嫌だとか。
荒木 そう、ご紹介の映画、両方の意味を持った映画なんじゃないかと思いました。まず最初は公開中の『愚か者の身分』という作品から。
ストーリーです。半グレって言葉はよく聞きますよね。

鈴木 わかります。
荒木 暴力団には所属してないものの集団で暴力的な犯罪行為してる若い人。規制対象にならないので、その活動は拡大傾向にあるって言われていますけどね。
このドラマ、その半グレ集団のひとつに属するタクヤくん。彼は年下のマモルと一緒に戸籍売買のビジネスで荒稼ぎしています。戸籍売買。聞いただけでヤバいと思いますよね。
鈴木 ヤバいですね。
荒木 具体的にはまず女性のふりをしてSNSで男を誘うんですね。
食いついてきた男にパパ活の女子を対応させて、いろいろ聞き出すわけです。その男が金に困っていると聞くと巧みに戸籍の売買の話を持ち掛けて、高額の報酬でその男の戸籍を買い取るんです。そして、その戸籍を欲しがっている訳ありの人、例えば前科のある犯罪者とか、外国人に数十倍の金で売って利益を手にするという手口で。
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鈴木 売れるんだね。
荒木 売れるんですよ(笑)、バンバンこれが・・・。タクヤの上には凶悪な指示役の佐藤くんてのがいてその上にまた幹部がいるっていう、そういう感じになってるんです。タクヤたちはもともと劣悪な環境で育っていて、気が付けば闇バイトを行う組織の手先になっていたのですが、元々はごく普通の若者だったんです。ところがある日 タクヤくんは、上司の佐藤が1億円を奪う仕事を手伝わされたことから、抜き差しならないトラブルに巻き込まれていくんですね。これをきっかけにマモルと共にこの世界から抜け出そうとするということなんですが、そこに想像を絶する報復、仕返しが待ち受けていたというお話です。
鈴木 嫌だなあ。
荒木 考えただけで怖いよね。「⼤藪春彦新⼈賞」というハードボイルド系の賞があってその受賞作の映画化です。主人公のタクヤくんには北村匠海さん。「あんぱん」ではおっとりしてたんですけどね。彼の兄貴分には綾野剛さんです。そして相棒のマモルくんに若手俳優の林裕太さん。闇ビジネスって、我々には全然わかんないですよね。
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鈴木 さすがにわかんないね(笑)。
荒木 この戸籍に関しての売らせ方や買わせかたの手口がしっかり描かれていて勉強になりますよ。
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鈴木 勉強になりますか(笑)。
荒木 勉強しちゃいけないけどね(笑)。
鈴木 まあいろんな勉強ありますからね。
荒木 そういうことも勉強しとかないと引っかかりますからね。それから半グレ集団の凶暴な男たちの怖さというか、戦慄の実態がリアルに描かれているんですよ。
拉致された時に受ける残酷な報復。ちょっと気の弱い人は駄目かもしれませんね。
私、久々にこんなラジオで言えないような残酷なシーン、久々に見ましたよ。
鈴木 マジですか、それ。
荒木 そういう闇ビジネスや半グレとかトクリューとかね。裏社会のちょっと我々が触れたくない部分や闇の部分をいろんな角度から生々しく描いてます。
本当にヤバい映画です。ヤバい映画の1本目です。『愚か者の身分』っていう作品のご紹介でした。面白かったですよ。
続いてのヤバい映画です。10月31日公開の『火の華』と言います。
この映画は10年前に発覚した日本の自衛隊の問題が元になってるんですけども、当時、自衛隊の海外派遣ってありましたよね。

鈴木 はい。
荒木 自衛隊を海外に派遣することで、いろいろすったもんだしたあげく自衛隊は海外の危険な地域に、つまり戦闘地域には行かせず、非戦闘地域、戦争してないところにだけ派遣すると。
鈴木 物資だけとかね。
荒木 そうそう支援とかね。ということになったわけだよね。そのあと 自衛隊の日報問題ってのが起こるんですよ。
鈴木 そんなんありました?
荒木 はい。日報つまり毎日の日誌とかねレポートです。これは当時、自衛隊がイラクや南スーダンに派遣されていた時に作られた日報。これを各国会でかな?見せてと言ったら、捨てちゃって、つまり廃棄してしまって「ないよ」と防衛庁の幹部が言ったんですよ。
鈴木 そんなことあったような(笑)。何かあったね、そんなこと。
荒木 実は日報は残ってたってことがわかったんですよ。
鈴木 えっ!?じゃあ嘘だったってこと?
荒木 嘘だったの。もっとヤバいのが、この時点で残っていた日報の中に「戦闘」という記載があったんですね。つまり非戦闘地域覇権限定なのにスーダンあたりで銃撃戦の記録が残ってるんじゃないかという話が、まことしやかに伝わってきたわけですよ。
鈴木 参戦しちゃったってことですか。いわゆる。
荒木 そういうことですね。つまり自衛隊が戦争状態に巻き込まれちゃったんじゃないかって。これ、あくまで推測ね、疑惑。そういう疑問が出てきたわけですよ。
本当のことは今もわかってないですよ。
鈴木 火のない所に何とかは立たないですからね、それは。
荒木 そう、このことで陸上自衛隊の幕僚長が更迭されたりですね、ちょっといろいろ揉めたんです。
鈴木 なるほど。
荒木 この映画、この事件がモチーフになっているんですよ。面白いでしょう?ストーリーをちょっと紹介します。主人公は島田という名前の自衛隊員です。この人は南スーダンに派遣されたんですけども、他の隊員たちと一緒に非戦闘地域であるはずの場所で戦闘に巻き込まれちゃうんですね。つまりドンパチやるわけですよ。
これお話ですよ。ゲリラと撃ち合いが始まって隊員が撃たれて島田はやむを得ず相手のゲリラの少年を撃ち殺しちゃうんです。この戦闘で自衛隊は1名が死亡で1名が行方不明になるんですけど、ようやく戦闘現場から基地に逃げ帰った島田は上司の自衛官から今回の戦闘は全てなかったことにしろと…。
鈴木 出た!UFOの隠ぺい事件と変わらない(笑)。
荒木 (笑)口外するなと強く言い渡されて帰国させられます。
つまり闇に葬られたわけですね。帰国した島田自衛隊を辞めて花火工場で花火師として働くんですが、いろんなPTSDとかが出て、仕事も手につかなくなって闇ビジネスに関わってたんですが、とんでもないことになっていくというお話なんです。
鈴木 こっちも闇ビジネスですか!また。
荒木 映画のお話ですよ、これ。
鈴木 わかっていますよ(笑)。荒木さんの口からは映画の話を聞いてるんですから。
荒木 そうですよね(笑)。日本ではこういった政治関連、特に安全保障だとかね、自衛隊に関わるテーマは、非常にナイーブなので、あんまりこういう映画は作らないですよね。
鈴木 それは、宣伝しておきながら見ない方がいいってことですか(笑)。
荒木 そんなことはないですよ。
鈴木 見たほうがいいね。ぜひ。
荒木 こういうね、ちょっとやばい…後半ちょっともっとやばいことになるんですけど、ネタバレ…。とにかく面白いんですけども、この映画、一体誰が作ったかというとですね、監督は小島央大さんという人なんです。
鈴木 元自衛隊の方とかじゃないんですか。
荒木 違うね、東大出の若い監督なんです。監督、編集、音楽、それから脚本全部やってんですね。ニューヨーク育ちなんですね。
鈴木 もう自分でバリバリやっちゃうんだね、なるほど。
荒木 長編2本目なんですけども、こんなちょっと質の高い、骨太の映画を作るってことで、ちょっと日本の監督と違う香りがしますね。私、お見掛けしたことあるんですけど、なんかね、何ていうの?IT企業にお勤めの若者みたいなそんな感じ。
新世代なんですよね。 もし、戦闘に自衛隊が巻き込まれたらっていう発想で作られた映画なんですけどね。その結果もちょっと…、結果的にはいろんな軍事クーデターにも通じるような状況が描かれているんです。リアリティが本当に感じられるということで、ヤバイということで、見る人を選らぶ作品ですね、嫌いな人、訳のわかんないという人だとか、
面白い派とそうじゃない派にはっきり分かれますよね。
鈴木 でもさ、実際自分から攻めていかなくても巻き込まれるっていうことあるじゃないですか。
荒木 ということですね。これもそうですよね、結構これ、私の今年のベストテンの中に確実に入るような、すごかったですよ。
鈴木 荒木さんの脳みそもヤバくなりましたね、ちょっといい感じに沸騰してますね。
荒木 ということで2本目は10月31日公開の『火の華』という作品でした。ヤバいって何回言いましたかね?私。
鈴木 8回ぐらいだと思います。
荒木 最後は今週の音楽関連映画です。
鈴木 待ってました。
荒木 もうねアニタ・パレンバーグのドキュメンタリー、見ました?
鈴木 見せていただきました。
荒木 古くからのローリング・ストーンズファンにはちょっと複雑な響きを持った名前ですよね。
鈴木 アニタがいたからいろんな名曲が生まれたから、ありがたいことはありがたいんですよ。
荒木 なるほど、そういう考えね。魔性の女ですよね、元祖。
『アニタ 反逆の女神』という公開中の作品です。アニタ・パレンバーグに関してはイタリア系ドイツ人のモデル、俳優、ファッションアイコンといわれた人でロック文化における象徴的な女性ですよね。

鈴木 まさしくそうですね。
荒木 1965年にローリング・ストーンズのリーダー、ブライアン・ジョーンズと恋をして、彼の死後はキース・リチャーズとの間に3人の子どもをもうけて、ミック・ジャガーも虜にしたという、アニタ・バレンバーグ。彼女を描いたドキュメンタリーですが、ダイちゃん、どうでしたか?
鈴木 語りを荒木さんがお好きな女優がナレーションやってたじゃないですか。
荒木 そうなんですよ。
鈴木 なかなか淡々とした素敵なナレーションで、まるでアニタ本人が喋ってるような感じになりながら、ずっと引き込まれました。でもやっぱりね、
1960年代はビートルズと同じようにローリング・ストーンズって、とにかくピークじゃないすか。ロック文化の。
荒木 そうですよね。
鈴木 花開いてサイケデリックに流れていく中でのアニタの存在感が、これまたすごいもんがあって、アニタが、いなかったらとにかくレット・イット・ブリードとか、名盤とか、とにかく何にも生まれなかったんじゃないのかなっていうくらい。
必ず誰かとべったりいたんですねってことですよね。
荒木 本当ですよね。しかも同じグループの中であっち行ったりこっち行ったりの、そのべったり感がすごかったですよね。
鈴木 ブライアン・ジョーンズは身体が弱い、身体が弱いって、言われてたじゃないですか。
荒木 そうそう、言われていましたよね。あとね、薬だとかね、ちょっと反社会的な行為もね、もう全部正直に描かれてましたよね。
鈴木 全て、いけないことを全部やっちゃったんじゃないかっていう感じですよね、あれ。
荒木 そうですよね。あんな身体に悪いことしていても、キース・リチャーズなんて、80歳越してぴんぴん生きてますからね、まだね。
鈴木 なんですかね。昔は。毎日ドクターペッパー4本5本飲んで、80代まで生きてたアメリカ人のおばあちゃんいましたけどね。
荒木 やっぱりそういうパターンもあるんですね、結局ね。
鈴木 合う、合わないなんですよ、多分そういうの。
荒木 そうだよね。そういう意味では、本当にすごい生きざまが映されてるっていうか、ホームビデオなんかも使っているんですよね。
鈴木 初めて見る映像たくさんありましたよ、やっぱり。
荒木 そうですよね。中でも、曲をまともにかけてるって感じじゃないんですけども、彼女をモチーフに作った曲だとか、いろいろ、紹介されてますし、よくご存知の方はご存知だと思うんですけども。
鈴木 ミック・ジャガーがアニタとの関係をモチーフにして、手に入らないものがたくさんあるんだって、言ったら無情な世界が出来たんだなっていうのは、えーっと思いましたね。
荒木 新しい発見もありますよね、・・・ということで古いローリング・ストーンズファンも、ローリング・ストーンズをそんなに知らないっていう人も見ていただくとね。
鈴木 人間模様が非常に面白いですよ、これ。
荒木 『アニタ 反逆の女神』という現在公開中のドキュメンタリー、ダイちゃんにすでに見ていただいたんだよね。ご説明をいただきました。
鈴木 だけど本当にあの5人中のチャーリー・ワッツ、ビル・ワイマンはもう全然、なびかなかったんだなっていう。
荒木 出ても来ないじゃん。
鈴木 本当、ほぼほぼビル・ワイマンは1回も見てないですよ、僕。
荒木 そうだよね(笑)。
鈴木 見ませんでしたね。何、してたんだろうな、あの2人はっていう感じですよね。本当に素敵な映画見させていただきましてありがとうございました、荒木さん。
荒木 どういたしまして。皆さんも見ていただきたいと思います。よろしくお願いします。
鈴木 ありがとうございます。

■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年生まれ。長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。
■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。